「綾音。最近カフェしにこなくなったじゃない。なにかあった?」

「別に」

「白石くん。今日もきてたわよ。この本返しておいてって頼まれた」

 ベッドに寝転びながら新しく買った本を読んでいると、母がノックとともにドアをあけた。

 二週間以上まえに貸した本が私の手元に返ってくる。もとは兄が集めていた作家の本で、兄の遺品となった今、すべてを私の本棚に移すことになった。

 母から受け取った本を、元通り、本棚に並べる。

「何があったか知らないけど、ちゃんとあの子に会いなさいよ。せっかく仲良くしてたんだから。それに、また別の本も貸してほしいって言ってたわよ?」

「……うん。わかった」

 母は白石刀哉の目が兄のものだと知らない。

 そして彼自身も、私が兄を愛していたことを知らない。

 ただ私が兄と彼の共通点に、目をつぶればいいだけなんだ。

 翌日、高校から帰宅した私は喫茶店で白石刀哉を待った。毎日きているわけではないらしいが、なんとなくくるような気がしたのだ。

 今朝のうちに彼に貸そうと思った文庫本を鞄に入れていた。

 本にかんする会話をするだけでいい。彼の目さえ見なければ、私はおそらく何も感じないはずだから。