「……ぷっ、あはははっ」



そこで吹き出したのはジェフリーだった。


ジェフリーは心底楽しそうに笑う。



「お嬢様にもそんな可愛らしい一面があったんですねぇ。パパと離れたくないよ~だそうですよ?旦那様?」


「ちがっ……!そこまで言ってないわよ!」



思わず顔を上げるとお父様と目が合う。


私はいたたまれなくなって目を逸らした。


お父様は咳払いをするとこう続けた。



「……リーゼロット。理由はどうであれ婚約破棄をするつもりはない」


「……はい」



お父様の声はいつもと何も変わらず淡々としていた。


冷静に返されると余計に恥ずかしくなる。



「それから近々エメラウス公爵家との食事会を予定している。必ず出席するように」



お父様はそれだけ言って口を閉ざしてしまった。


エメラウス公爵家、つまりヴィルフリート王子とその家族。


……あまり会いたくないのに。


もう話はないというようなお父様の態度にしぶしぶ書斎を後にした。


部屋を出るときジェフリーがこちらを見てにっこり笑いながら恭しく一礼をした。


それもまた裏がありそうな笑みだった。




婚約破棄作戦はただただ私が恥をかいただけで終わってしまったわ。


自室に戻る途中ナーサリーがにこにこしていたのでどうしたのか聞いてみるとこんな答えが返ってきた。



「リーゼロット様って実はお父様大好きっ子だったのですね」



……言わなきゃよかった。