それは突然だった。


一目惚れした彼との婚約を認めてもらって数年。


忙しくてなかなか会えない彼にせがんで設けてもらった二人だけのお茶会。


普段はクールで私の事を一切見ない彼がにこやかに私を見ている。


彼もようやく私の魅力に気がついたようね!


私もそれに返すように微笑む。


そこで彼の側近が紅茶を運んできた。


「レモンティーでございます」


紅茶を受け取るとティーカップにレモンを浮かべる。


レモンのいい香り!


にこやかに微笑み続ける彼に見守られる。


中、カップを口元に近付けた瞬間。


ドクンと心臓が大きく跳ねた。


逸る鼓動と吹き出る汗。


いわれのない焦燥感。


紅茶に口を付けてはいけないと脳が警鐘を鳴らす。


「リーゼロット?」


動きを止めた私を不審に思ったのか彼が私の名を呼ぶ。


瞬間、頭が割れそうな程の痛みにカップを手放す。


ガシャンと音を立ててカップが割れ、熱々の紅茶がテーブルに飛び散った。


「リーゼロット様!?」


隅の方で控えていた彼の側近と私の侍女が慌てて駆け寄ってくる。


でも私はそれに構ってられなかった。


頭の中に処理しきれないほどのたくさんの映像が流れ込んでくる。


とある本を大切そうに抱える少女の数年の成長記録みたいなものだろうか。


映像の最後はその少女が交通事故に遭うシーンだった。



…………思い、出した……。


私の前世を……。