自販機前で



なにはともあれ、3人の添乗レディーと客であるオレは無事、”達する”ことができた。
まあ、所詮、夜の風変わりな市井を生きる大人の戯れだ。


たいそうなものではなことを百も承知で、運転手のヒデ君を含め、車内の5人は何とも言えない充実感を共有していたと思う。
それは、接待側も客もなくで…。


***


「りりかさん、自販機ありますね」


「そう…。じゃあ、止めてちょうだい」


自宅までもう、わずかという交差点脇で花タクシー車は静かに停止した。


「タカコちゃん、奥山さんに何か冷たい飲み物をね…。小銭は助手席の足元にあるバッグから出していいから」


「はい…」


すでに概ね服を纏っていたりりかへ、タカコからは実に”いい返事”が返ってきた。


”ビフォワーアフター”…。
何故か一瞬、頭の中にそんフレーズがタカコを見て浮かんできてね…。


***


「じゃあ、オレが選んでいいですか?」


ズボンを元に戻し、りりかへ顔を向けてそう”提案”すると、彼女はしっかり察してくれて、さずが年季の入った夜の蝶と無言で呟いてしまったよ。
で、彼女はニコッと笑って、「じゃあ今、降りますね」とね…。



「奥山さん、どれがいいですか?」


「うん、炭酸が飲みたいかな」


「コーラでいいですか?」


「ええ、お願いします」


彼女は自販機から取り出したペットボトルのコーラをオレに渡した後、何か言いたそうな顔つきで、「あのう…」と言ってきた。


オレは彼女の意を汲めたので、その場から助手席に戻っていたりりかに声をかけたんだ。


「ああ、りりかさん…!すぐ戻りますから、外で飲んでいいですか?」


「ええ、どうぞ」


彼女はここでも瞬時にこっちの様子を察し、またもにっこりだった。


***


オレがタカコの方を向いたままコーラを口に運んでいると、地味な笑顔を浮かべたタカコが話し出してきてね…。


「…奥山さん、今日はすみませんでした。…私、慣れてなくて…」


「いいえ。こちらこそ、いろいろ出過ぎた態度を取ってしまった」


「そんな…」


「出過ぎついでに言わせてもらうかな。タカコさん…、あまり無理はしない方がいいと思うよ」


彼女はすぐにピンときたようだったよ。