伝説に散った龍Ⅲ












side雄大



















───あれ?とふと思う。







「なあ、ミオ」



「んー?」



「“エンちゃん”って、久々に聞いたな」



「ん、たしかに」



「燐ってなんでアイツのこと“エンちゃん”って呼んでんだっけ」



「そりゃお前、あれだよ」



「どれだ?」



「“炎龍”の、“炎”の、“エン”」





いや、それはそうなんだけどさ。




































「燐あいつ、前は“セリナ”だったよなあと、思って」





そう。



ある日を境に、燐はあいつをセリナとは呼ばなくなった。



突然自分を“エンちゃん”と呼ぶようになった燐を見て、セリナが困ったように笑っていたのを覚えている。





「…ああ、あいつ」





ミオが呟く。





「噂の“炎龍”がセリナだって、途中まで知らなかったから」



「…そういえばそんなこともあったなあ」







































───あれは、たしか。





「雨の日、だったな」





酷い雨が地面に打ち付けていた。



学校からなかなか帰ってこない燐を、セリナが迎えに行って。



当時誰の言うことも聞こうとしなかった燐が



土砂降りに振られたセリナを見て『エンちゃん、びしょ濡れじゃん』と笑った。



どうやらその日



燐は同級生に酷い怪我を負わせていたらしい。
























































あれは衝撃だったなあ。



見たことのない顔をした燐に心底驚いた。俺もミオも。



けれど燐は、あいつの呼称を変えた理由を頑なに言おうとしなかった。



そうだ。思い出した。






























































一体、何があったんだろうか。