母は、昔から免許もなければ、自転車にも乗れない人だ。

私もまた、ここを離れた8年前から車の運転は一切していないので、これらの自転車のどれかを借りることになるだろう。

「帰ったよ!」

ヘレンが怒鳴るように言うが、返事はない。

どうしたのだろう?と、私も小声で、

「ただいま…」

そう言っても、やはり返事はない。

仕方なく、ヘレンについてリビングへ向かうが、母は私たちを一瞥するも、無言だ。

「相変わらず感じ悪いね!おかえりすら言うのが惜しいの?」

ヘレンの尖った言葉に、ギョッとする。

ようやく母は鬼の形相で振り向いたが、

「アンタなんかに帰ってきてほしいとは思ってないから。しかも、またそんな娼婦みたいな格好で出掛けたわけ?ホントに、姉妹揃って私に恥をかかせてくれるわね!」

姉妹揃って…か。

やはり、私の離婚のことも言っているのだろう。

「何が娼婦だ!中学の担任に注意されるまで、ブラも買ってくれなかったくせに。恥かかされたのは、あたいのほうだっつの!」

「ちょっと!二人とも喧嘩はやめてよ…」

さりげなく抗議すると、

「法子は、この子に比べたらまだマシかと思ってたけどねぇ…失望したわ」

母に冷たい視線を投げつけられる。

まだ、離婚の傷は全く癒えてないのに、母の言葉で更に傷ついてしまう。