しかも、黒髪の人の顔が間近にあって、どこに視線を向けていいのかがわからない…!


「あ…あの、下ろしてください…」

「さっき、足に力が入らないって言ってたのは、だれだよ?」


そう言われてしまっては、ぐうの音も出ない。


「でも…、わたし…重いからっ…」

「むしろ、軽すぎてビビってる」


本当にそう思われているのか、黒髪の人は軽々とわたしを抱きかかえながら階段を下りる。


「それに、もう1人で歩けそうなので――」

「さっきも言っただろ?大人しくしてろって。言うこと聞けねぇなら、その口塞いでやろうか?」


黒髪の人は、グイッとわたしに顔を寄せてきた。

一瞬、本当に…キスされるのかと思った。


ただのハッタリではあるはずだけど、わたしはそれに怖気づいて、そのまま口をつぐんでしまった。