はぁっと深いため息をつき、貴重品と厚地の手袋、必要な書類をトートバッグに詰める。この書類がなければ、大会に出場することはできない。

 バッグの紐を肩にかけ、アパートの一階から外出。悠人が来ないという切ない気持ちが押し寄せて、ずっとアスファルトの地面を見つめていた。上を向くのは時たま挨拶してくる人に、返す時のみ。

 会場についてもその気持ちは変わらず、受付の近くにいた友達に話しかけられても気分が乗らない。

「柚乃、大丈夫? 顔真っ青だよ」
「うん、平気。気にしないで」
「もう。そんなに緊張しなくていいのに」

 真莉は私を励まそうと、口角を上げて微笑んだ。それが実は逆効果なのは知っていたけど、一応友達だからと受け止める。

 彼女の言う通り、私は緊張しやすいタイプだ。前日に発表会があると知れば、睡眠を取るのもやっと。額から汗が滲み出てくる。ただその割に決断力と器用さがずば抜けており、たとえ緊張してもそれらでカバーできる。

 もう本番だから悠人が来ないことは仕方ないと割り切り、速やかにロッカー室へ向かう。