集結の地/その3


その夜、律子は昨夜と同じビジネス旅館にもう一泊することにした。
今朝チェックアウトする時、もう一日泊まるつもりらしきことは伝えておいたので、旅館の主は歓迎してくれ、昨夜と同じ部屋をあてがってくれた。

夜9時前、すでに夕食と入浴を済ませ、律子は今日N市の図書館と民俗資料館で控えてきたメモやコピー類の整理にかかっていた。
それらに再度目を通し、N市内のコンビニで買ったノートにまとめる作業は彼女にとって、向井祐二の叔母と会い、祐二が残した手紙の中の彼の”想い”と向き合う準備とも言えた。

”明日で決着することができたら千葉へ戻ろう…”

すでに律子は、この地に再度訪れた目的を果たせるのが、もう間近だという予感がしていた。
本当は今晩あたりに一度、家に連絡を入れようかと考えていたが、結局今日はやめておくことにした。

”たぶんアパートには合鍵で入ってると思うから、あのメモを見たお母さんは岐阜のおばさんにもう連絡を入れてるはずだ。それに警察が動いてるのは間違いないと思うし、もしかすると私を追ってこの町に来るかも…”

律子には、警察が職場の店内で発生した謎の白い煙と悪臭には、バイクを通して繋がる向井祐二と自分の二人が関連ありと見立てるだろうことは、早い段階から見通せていたのだ。

...


”とにかく明日だ。今日はもう寝よう…”

明日を期し、律子は夜10時半には寝床に就いたが、昨日のようにすぐには眠れなかった。
こうして布団の中で横になって目をつぶっても、なぜかバイクに乗ってる感覚が抜けないのだ。

”一体感…”

律子にはこのフレーズがすんなりと自分の中に入って行くのを感じていた。

やがて、感覚としての”バイクに跨った律子”は夢の中へと発って行った…。

...


”そこ”はどうやら祐二の生まれ育った尾隠しの集落周辺のようだった。
尾隠し地蔵から集落を抜け、更に山深くまで続く細い山道をただひたすらバイクで駆け上がって行くと…。

明らかに日中ではあるのだが、木々の猛り茂った深い山林ではほとんど太陽の光が遮られ、暗いけもの道が続く。

だが、律子はそこを無心に突き進んで行く。
迷うこともなく…。

そして”バイクと律子”はいつの間にか下り坂を疾走していた。
すると、正面には陽が射しきた。
”律子たち”はさらに急となった傾斜を猛スピードで駆け下りて行くと、谷が口をかけているかのように待ち受けていた…。