約束された情景/その1


高速のパーキングエリアで仮眠をとった後、岐阜県〇〇町にある、”あの神社”に着いたのは、朝9時半過ぎだった。
祠の前に立ち、律子は頭の中で、あの時の記憶を呼び戻していた。

昨晩、うとうとしていると不意に、脳裏に映ったあの日の情景。
それは、寸分なく違わなかった。

”ここだ、確かに…。不思議だ、なぜ今まではっきりと思いだせなかったのだろう”

ここで子供の頃、確かにあの場面に出くわした。
律子はあの出来事が起こった”そこ”で、しばしの間、心を空にして立ち尽くしていた。

...


30分ほど神社内に身を留めた律子は、バイクに乗り出発した。
向かう先は、あの頃、律子が数か月お世話になっていた親戚の家。
バイクを飛ばせば、数分のところだった。

...


その家に着くと、庭で洗濯物を干している年配の婦人は、バイクで庭に入ってきた律子に気が付いた。

ヘルメットをとり、バイクから降りた律子は、約10年ぶりに会う親戚のおば、達子にお辞儀をしながら挨拶した。

「おはようございます。ご無沙汰しています。千葉の律子です、小学校の頃お世話なった…。急にすいません」

一瞬、きょとんとして律子の顔をまじまじと覗き込む達子…。
少し間を置くと、律子のことを思い出し、両手を勢い良く叩いてにっこりろ笑った。

「あらー、律子ちゃん!まあ…、すっかり大人になって。突然だったから、どこのお嬢さんかと思ったけど。何年振りかしらねー」

気さくな性格の達子は、懐かしそうに話しかけた。

「でもどうしたの?今日。急に…」

「先週、このバイク買ったんで、初の遠出なんです。長野まで行くから、ちょっと顔出してみようと思って。驚かせましたよね」

達子は「そうなの」と、にっこり笑って、一旦洗濯物を縁側に置くと、「とにかく中入って」と、律子を家に招き入れた。