形跡/その2


秋川は、ここまで把握できていることを頭の中で整理した。
津藤律子は昨夜、隣のフリーターとアパートの前でトラブルになった後、電源を切った状態で携帯電話を部屋に残し、バイクで出かけて行った。

その後数時間して、”その”フリーターが窒息死した。

首の周りには何かで締め付けられた跡があり、直接の窒息死も考えられるが、何者かが首を絞めたとした場合、ロープなりの”凶器”は見当たらなかった。

フリーターの部屋には鍵がかかっており、もし何者かの犯行ならば外へ出た後、施錠することが可能となる手段を要する。
つまり、玄関の合鍵の所有か、ベランダ外部からの施錠を可能とする何らかの方法、それらが必要となる。

フリーターの部屋には争った形跡は残っておらず、また外部侵入者の出入りを示すものも特に見当たらない。

...

これらの個別事象をまとめると、律子が隣の部屋の住人を死亡推定時刻前後に殺害した疑いは、まず考えられないということになる。

念のため、律子の部屋で押収した指紋と隣の部屋に残った指紋を照合し、一致箇所がない場合は、律子がフリーターの死亡に直接関わった可能性は極めてなくなる。

しかしながら、、勤務先での騒動とその場にいた小峰夫人の死亡、そしてトラブル関係があったと思われる隣人男性の変死…、そのいずれも、律子が突然姿を消した前後を挟んで起きたということには、どこか不自然さ否定できない。

そうなると、律子の安否にもかかわる可能性だってゼロとは言えィアに。
まずは、津藤律子を探し出し、会って事情を聞くことが先決となる。

秋川はそう結論にたどり着いた。
そして、こう確信した。

”彼女は間違いなく、あの神社に向かったはずだ”、と…。