新たな事件


監視カメラを見終えた刑事の秋川は信用金庫の支店を出た。
本件については、特に事件性なしとして決着するつもりでいた。

たしかに例の白い煙は、監視カメラにもはっきりと映っていた。
アレが毒ガスとかだったら、あの場にいた全員に症状が出たはずだ。
だが、実際は、小峰夫人と女子職員一人だけだった。

ならば、せいぜい床下の配管とかを信金側で点検してもらう程度で、原因がはっきりしなければ、小峰夫人の死因と関連性は特定できない。
警察の捜査範疇では、今回はここで結論を出さざるを得なかった。

...


ただ、あの煙の渦中にいて、小峰夫人に現金を投げつけられた女性職員の津藤律子が、あれからまだ出勤していないという…。

秋川はこのことが気になっていた。
小峰夫人が発作を起こす直前の、その不審な行動もやはり引っかかる。

”今日にも彼女のアパートに様子を見に行くといっていたから、何事もなければそれでよいのだが…”
そう頭の中で考えながら、秋川は車のエンジンをかけた。

しばらく走ったところで、東署から連絡が入った。
アパートで男性の死体が発見されたとのこと。

現場はここから近い。
急きょ、秋川はその現場に向かった。


そのアパートに到着すると、すでに後輩の新田が状況をこまめに調べていた。
死亡した男性は29歳のフリーターで、この部屋に一人暮らしだったという。

「首には、何かで締め付けられた跡が残ってますね」

新田が秋川の横に寄って、男性の首のあたりを指さした。

部屋には第一発見者の友人と大家が立ち会っていた。
友人は今朝、約束していた時間通りにここに着き、インターホンを鳴らしたらしい。

部屋からはテレビの音声が外にまで漏れていたが、何度呼び鈴しても出てこなかったため、1階に住んでいる大家に鍵を開けてもらったところ、男性はすでに死亡していたという。

新田は目で合図し、秋川をアパートの外に連れ出して、小声でこ語った。

「大家が言うには、ここ最近、隣の部屋のOLとガイシャの間でトラブルが何度かあったらしいんです」

秋川は、「ほー」とだけ呟いた。