門出のあなたに




「そんな、俺のこと知りもしないヤツから、色々貰っても嬉しくない。その辺の女子(やつら)と同じになるつもりか、お前」





彼の考えたことは分からなかったけど、酷いことを言われたことだけは分かった。





「先輩、ひど……」





「どっちが酷いんだよ」





きっと睨みつけられて、思わず立ちすくむ。





視線を逸らさずに見てくる彼の瞳が、彼のことを知りもしないのに、何故か悔しそうに歪んだように見えた。





「お前の気持ち篭ってないものを、お前の手からなんて、貰えるか。出来ないんだから、捨てて忘れてくれ」





それだけを言って、彼は小春の目の前から立ち去って行った。




背中に階段を上っていく彼の上履きの音を聞きながら、何故自分はこんな気持ちを味わわなければならないのかと思った。





呆然と手のひらのキーホルダーを見る。




その小春の様子を見て申し訳なさそうな声で謝ってきたのは、笠寺だった。





「……ごめんな、竹内……」





「……先輩……」





「本当に、ごめん。俺があんなこと頼まなかったら良かったな」





笠寺が謝ってくれるけど、悪いのは笠寺じゃないと思う。






「……笠寺先輩は悪くないですよ」





「でも、俺が竹内を巻き込んだ所為で、嫌な思い、しただろ?」





確かに嫌な思いだ。




……でも、今心の中を駆け巡っているのは、違う気持ちだった。





……何故、彼は、小春を見て悔しそうにしたのだろう?






強烈に網膜に残る、あの、瞳。






あの瞳に、なんだか、胸の奥を抉られたような気持ちになったのだ。





そのくらい、強い、歪んだ視線だった。





どうしてそんな視線を向けられるのか、分からない。




知らない間に、自分は彼に何かをしてしまったのだろうか。





「……それ、俺が処分した方がいいな……」





笠寺が手を差し出してくれたのを、ぼんやり見る。





これは、笠寺の思いが詰まったキーホルダーで。




でも、笠寺の気持ちは物なんてなくても残るんだって言ってた。




だったら、そこに小春の気持ちが篭っていないことを、何故責められなければいけないのだろうか? 




だって元々知らなかった人なのに。





「……笠寺先輩……」





うん? と笠寺が応えてくれる。





だから小春はぽつりと言うことが出来た。





「……やっぱり、これ、捨てられないです。……それに、尾上先輩のことも、あのままにしとけない……」





抉られた心の奥を、何とかして埋めたい。





強い視線に足元を絡め取られた小春が出来ることは、それくらいだった。