「…………」
手のひらに残された、キーホルダー。
尾上は笠寺からちゃんとキーホルダーを受け取っていたようだった。
なのに、これを要らないと返してきた。
この前の笠寺の話だと、このキーホルダーは彼の要望にとても合っている物のはずだし、だったら何故これを返してきたのだろうか。
彼の先刻の言葉を思い出す。
彼は、小春のキーホルダーを盗み見た、と言ってなかっただろうか。
別に鞄に付いているキーホルダーだから、通りすがりに目に付いたくらいのことはよくある話だ。
そしてそれをたまたま気に入ってしまうっていうことも、ないとは言い切れないだろう。
だから、彼が申し訳なく思う必要もないと思うのだけど、何が彼にそんなに罪悪感を覚えさせているのだろうか。
同級生の男子の山澤もゆるキャラ好きで、小春のキーホルダーのクマの絵の付いた定規を持っている。
だから、同じ物を好んだからと言って、別に嫌な気持ちにはならないと思うけど…。(まあ、リボンはどうかと思うけど)
「それ、ヘン」と言われるよりも、「それいいね」と言われたほうが嬉しいし、同じ物を欲しいと思われるようなことがあったら、それはそれでイイ気分なものだ。(相手にもよるのかもしれないけれど)
小春は自分のキーホルダーをそれなりに気に入っていたし(だってリボンを巻くくらいなんだから)、たかがキーホルダーだけど、同じものが欲しいなんて、自分のセンスを認められたような気がして悪くない。(だってリボンを巻くくらい好きなのだし)
もし、そこを彼が誤解しているのだったら、それは解いてあげたいし、笠寺の気持ちのためにもこれは彼に持っていて欲しいと思う。
もう、声も聞こえないくらいに遠くに消えてしまった彼らを、明日探そうと思う。
そして、笠寺の気持ちのことをちゃんと話して、自分も別にイヤな気持ちではないと伝えて、これを彼に貰ってもらおう。
笠寺の、彼を大事に思う気持ちが、それで届けばいいと思った。



