二月に入っていた。冬の午後は空気ごと金色に染まったような雰囲気になる。


たまの日差しだからそう思うのだろうか。


ぬるい日差しを受けながら、小春たちは本日の授業を終えて校門をくぐっていた。




「竹内。ちょっと悪いんだけど、そのキーホルダー、どこで買った?」



校門を出たところで、背後から声を掛けられて、ちょっとびっくりした。


今日は土曜日で、これから早紀とお茶でもしようかと言っていたところだった。


隣を歩いていた早紀と、思わず顔を見合わせて、それから一緒に背後の声の主を見た。



其処には笠寺先輩が立っていた。




「せ、先輩! お久しぶりです!」



学校指定のブレザーが憎いほどよく似合う。


部活をしていた時より少し伸びた前髪を鬱陶し気に掻き上げると、笠寺は浪越戦以来だな、と微笑んだ。


その笑顔にどきりとときめいてしまう。


隣の早紀も同じようなものだ。




ラグビー部で、快速ウイングでチームの得点源だった笠寺先輩。


先輩は爽やか青年というルックスと気さくな人柄で、彼の人気で女子にあまり好まれないラグビー部の試合に稲江高校の女子を応援に動員できたほどだ。


小春たちが憧れるなという方が無理だ。




「うん、元気そうで何より。ところでさ」



「あ、キーホルダー、でしたっけ?」



小春が言うと、笠寺は、そう、と頷いた。



小春が鞄に着けているクマのマスコット付きのキーホルダー。


それがどうかしたんだろうか?




「それ、何処で買った? 出来れば同じやつが欲しいんだけど」



「同じやつ、ですか?」



憧れの笠寺にキーホルダーのお揃いを願われるとは思わなかった。



一瞬でときめきが増したが、しかし笠寺は小春の心中(しんちゅう)も知らず、無情なことを言う。



「そう。俺の親友がさ、そういうキーホルダーが欲しいって、言ってたんだよ」




笠寺の親友ともなれば、当然男子だ。


その人を、小春は笠寺を追いかける視線の先で時々見ていて顔だけは知っているが、そんな男の人がどうしてこんなかわいいクマのキーホルダーを欲しいと言うのだろうか?



「……おかしくないですか? 男子の先輩が、こんなクマのキーホルダー……」



「いやでも、あいつが言う特徴を総合すると、それだとしか思えないんだよ。特に、首にリボンが付いてるだろ? リボンが付いてて更にチェックのなんて、何処にもなかったんだよ」



笠寺の言葉を聞くと、既にキーホルダーを探し回ったことが分かる。


このキーホルダーはショッピングセンターのUFOキャッチャーで取ったものに小春が自分でリボンを巻いたものだった。



そう説明すると、そのUFOキャッチャーでキーホルダーを取ってくれないか、と頼まれた。



「俺、ゲーセンとか全然駄目でさ。細かいこと向いてないんだよ、ラグビーボールが限界。だから頼む」



ぱん! と手を合わせて拝まれてしまっては断れない。


そもそも小春に笠寺の頼みを断るなんて選択肢はなかった。



「……じゃあ、まず、ショッピングセンターに行きますか?」



「助かる! 持つべきはやさしい後輩だな!」



嬉しそうに笑みを浮かべる笠寺に、ちょっとだけ胸が痛む。


そうだよな。後輩としか、思ってもらえてないよな。


そんな気持ち。




それを振り切って、じゃあ、行きましょうか、と笠寺を促した。