その8



”それにしても、ミユキとの1年から1年半間隔での密会は毎回、宝石のような時間だった…。ふう‥、思えばいろんなことがあったよ、やっぱり。でも決まって、オレたち二人は大きな問題が起きるのも、概ね一緒の時期で…。最初以来、10年以上、2回から3回に1度は、二人とも深刻な悩みを打ち明けあったよ。不思議なもんで、オレとミユキはずっとそんなサイクルで、年月を重ねて行ったんだよな…”


確かに初めて出会った時の奇妙な程の”境遇の一致”は、裕一の言う通り、最初の10年ちょっと、ものの見事なまでに”お互いさま”での悩み持ち込み割合いであった。


しかし…、少なくとも裕一の方は、それ以降、時折ミユキからの連絡でディープな相談事を告げられると、あくまで善意でそれに”合わせて”しまうきらいがあった。


それは、どうしても年を取るに連れて、特に健康上の問題など、女性のミユキ方が発生度合いが顕著だったということにある。
裕一はそんな彼女を慮って、密会時には相手と同等に近いラインまで、抱える相談事に”衣”をつけるようになっていたのだ。


***


前回の緑内障は、まさしくその最たるケースに当たった。
この時、彼は自然と持病の前立腺肥大をオーバーに脚色し、彼女に”君だけじゃない。オレもしんどいが頑張ってるから‥”というエールを送る意味合いが込められていたのだ。


とにかく裕一は、この20年以上、彼女が”いつも自分だけ相談に乗ってもらってる”という気遣いを極力持たせないよう、嘘も方便を貫いてきたのである。
実際、 別れたくなかったし…。


”でもまあ…、オレたちはホントに互いの話を親身に聞いて、その解決策をそれこそ我が身のことと捉え、どっちも真剣に考え合ったよ。それで、一気に解決したりは何度もあったし。…おこがましいかもしれないが、やはりオレとミユキはギネスブック並みの、最強な不倫の達人だぜ。エッチの内容はともかく、精神的な面ではな…(苦笑)”


このの苦笑は、変に豪快さを醸していた。
もう裕一は、初回に取り決めた自分たちの不倫関係における”理念と主旨”、そしてその行為ペースを、なんと還暦まで忠実に”実践”できてきたことに、深い満足感が湧きあがるのを抑えることができない状態だったのだろう…。


結局、深夜2時近くまでブランデー六杯を飲み干し、彼はときめいた”いい気分”のまま眠りについたのである…。


***


翌日、妻の遺影に手を合わせた後、裕一はルンルン気分でミユキとの待ち合わせ場所へ向かった。


「裕一さ~ん!」


「よう、ミユキ~!」


二人はまるで遠距離恋愛中真っ盛りの恋人同士さながらで、1年3か月ぶりの再会に胸を躍らせ、まずは和風レストランで互いの”事案”を綿密に揉み合った。
”最初の頃”と変わらず、互いに真剣に…、約2時間…。


だが…、今回は二人とも、”これまで”と全く一緒という訳ではなかった。
それを、裕一もミユキも自覚することはないというか、できないでいたのだ。
おそらく”最後”まで…。