その4



「…奥さん、さっき仮免の実地で一緒だった連中、どうやら我々以外は皆合格のようです。内、2人は一発みたいだ。…どうです、ここは落第生同士、もう少し深く触れあいませんか?」


これがこの時、裕一の切りだした口上だった。
二人は数秒間、無言のまま目と目を見つめあっていた。


先に視線を外したのはミユキだった。
彼女は右隣の裕一とは反対側のやや斜め下へ俯いた…。


”だが、オレは間髪入れなかったな。こんなシュチエーションなんて、そうそうあることではない。ふふ‥、今思い返しても絶好の畳みかけだったわ…”


***


裕一には、何しろミユキの琴線をピンと弾いた手ごたえがあった。
彼は迷いなく、自慢のソフトな語り口で”営業トーク”まがいなクロージング詰めに出る。


「…さすがにここまで同じ境遇となれば、何かの巡り合わせを感じるんです。同じ年で同じ数の落っこち回数…。それにどっちもこの年で免許を取らなきゃならない境遇だって、所詮は義務感におっぺされたってとこで、どこか似通ってる。…今日、4連続不合格仲間の奥さんに会えなかったら、夜は行きつけのスナックで愚痴をこぼさずにはいられなかったですよ。家に帰れば、嫁さんからは男のくせに情けないって罵倒され、会社の上司からはバッテン食らうんですからね…」


裕一がここまでしゃべると、ミユキは俯いたままでクスッと笑いをこぼした。
これを受け、彼はピッチを上げる…。


「…もしかすると、安スナックでヤケ飲みして、タイプでもない”付き”の女の子を口説いちゃったかもしれない。でも、そんなの、単なる一時のストレス発散です。さあ、心機一転で明日から頑張るぞ!…って前向きなエネルギーを得られるもんじゃないですよ。…でも奥さんは私とは違って、年上の旦那さんから、”仕方ないよ。ムリしなくていいよ”…とかって、優しく気づかってもらえるのかもしれないですけど…」


裕一はすかさず、彼女を覗き込むようにして、反応を待った。
すると…。


***


「いえ!私も罵倒されます。元々、車の用は私が免許取って運転するからってことで、飲酒運転を辞めるように年中たしなめていたんです。免許取るの諦めたなんて言ったら、それみたことかとケチョンケチョンです!」


彼女は視線を裕一に戻し、感情を込めてそう答えた。
さすがにあまりのダイレクトなミユキのリターンに、裕一はやや戸惑ったのだが…。


”ミユキのヤツ、上品な顔を紅潮させてどこか訴えるようだったな…。何かいじらしくなって、無性に抱きしめたくなったわ。それで、思わず口説くというより、オレの彼女を思う気持ちに従ってってとこにスライドしちまった…”


「…どうやら私たち二人は、このままサヨナラって訳にはいかないようです。あなたを旦那さんの元へ返す前に、励ましてあげたい。逆に私にも奥さんの慰めが欲しい…。お時間、どうです?」


「ええ‥、夕方までに戻れれば…」


これで決まった…。
午後2時半…、二人は一緒に教習所を出てバスに乗った。
言うまでもなく、その1時間後にはお互いの体の上に乗っかっていた。
モチ、スッポンポンで…。