その2



”しかし…、思えばオレたち二人は手前みそながら、ホント、スマートでクレバーなマラソン不倫を続けてきたものだ…。そこらにはびこる、刺激と欲望のはけ口だけで不貞の門をくぐった連中とは品格が違う。ミユキとオレはやってることは同じ花ゴトでも、互いに生きる人生のエンジンにガソリンを注ぎあうポジティブかつプログレッシブな関係なんだ…!”


裕一のこの胸中は、”ミユキとの最初”から常に持っていた確信であった。
そして、お相手のミユキも、同様の思いを一貫して持ち続けてきた。


”前回だってそうだったさ!…ミユキの方は元来のど近眼だったのを軽視したツケが回って、緑内障を患い、手術を目前に控えていた。オレって言えば、まあ…、これも持病的な前立腺肥大で、入院・手術もありという局面ってことでだった‥。加えて、双方とも連合いの病状は深刻化していたしな…”


とは言え…、実際には裕一が前立腺を事由とした入院・手術に至ることは現時点までなかった…。


***

”…あの後、ミユキの手術は成功し視力を失うことは回避できて、オレの方も当面、経過観察で済んだが…。あの時は互いに抱える年齢相応に起因した健康上の悩みを分かち合い、一夜を共にすることで病魔と闘い、お互いの配偶者への介護・看護に追われる日々にも、闘志を駆り立てることができた。そうさ…、オレたちはこの不倫関係があってこそ、目の前のカベに立ち向かう気力とエネルギーを保ってこれたんだ。なんと意義深い不倫関係なんだ…”


まさにこの夜の裕一は、自画自賛で陶酔の域にどっぷりだったようで…。


そのそも、お互いに悩み事や問題を抱えたときに情事の場を持つというスタイルは、二人が出会った時に確立されていたのは、実際であった。


裕一とミユキが初めて会ったのは…、それこそ”ん十年前”、都内某所の自動車教習所…。
厳密には仮免許試験中の車中だった。


”あの時は彼女が仮免の試験中で、オレは次の番ということで後部席に乗っていたんだったな。ふふふ…、アイツ、オレが言うのもなんだが、めちゃくちゃへたくそで、車庫入れじゃあ、もろクランク乗りあげて何度も切り返してて…。後ろから見ても顔面蒼白で汗びっしょりだったのが分かった。当然不合格だったが、このオレだってミユキほどではないにしろ完璧アウトで、まあ…、このことがあって二人の関係が始まったってんだわな…”


二人はの日の不合格で仲良く仮免4回落ちとなり、なんとそのままホテルに直行し、体を通じても”仲良し”になってしまうのだ。