その1



有島裕一と長谷ミユキ(旧姓秋田)は、不倫歴”ん十年”…、筋金入りの熟々カップルである。


ただ…、その間の二人における”情事の頻度”は、1年乃至1年半に一度という実に”淡泊”なもので、このペース(不文律⁇)をリスクパートナー同士である双方が、長年ずっと保ってきたのだ。
一方、その行為となれば、毎回ベッド上で濃厚に愛し合ってはいて、文字通り量より質…、そこ極まりしで体現した密会を積み重ねてきたん十年と言えた。

そして今年…、同い年の裕一とミユキは共に還暦を迎え、この熟練不倫ライフも大きな節目を迎えることとなった…。
という訳で、この二人は明日、1年3か月ぶりの再会を控えていた…。


***


二人がこの密会間隔を一貫して維持できたことには、結果的ではあるが、情事を持つ際には、”ある前提”を置いていたことがあった。
それはズバリ、”互いの悩み”を慰めあう…、いや、裕一とミユキからすれば、厳密には直面した問題に立ち向かう鋭気を養いあう場とする…。
そんな、人生を生き抜く上での有意義かつポジティブな”行為”として位置づけていたのだ。


実際、この二人はこれまでの”ん十年間”、互いにエッチを含めた密会での場で励まし合いうことを滋養強壮剤として、幾多の難事・障害を乗り越えてきたことは明らかだった。
よって、裕一&ミユキは自らを最もクレバーな、不倫関係の鏡と自負していた訳で。


”これ程ベターな不倫関係を長年続けてこれたカップルなんて、へへ…、そうはいない!”


これがこの二人の共通認識であった。


***


”…明日は俺たち二人にとって、ひとつの区切りになるな…”


裕一はその前夜、ブランデーをチビチビとあおりながら、胸の内でしみじみ~と、そう呟いていた。


”何しろ今回は、互いに交わす事情が特段にディープだ。…ミまずもって、ユキのダンナが痴呆でついにアウトだそうだしな…。で…、約1年近くかけ、家裁から成年後見人指定の判決を受けたと…。で…、どうやら彼女、親戚やら何やらのプレッシャーで、身も心もヘトヘトのようだ。ダンナの痴呆もかなり深刻な段階に進行しているみたいだし‥”


他方、裕一はと言うと…、2か月前に長く闘病中だった10歳下の妻が、急性肺炎で死去という”不幸”に見舞われ、まだ心の整理ができず焦燥の最中にあった…。


”互いに長年連れ添った人生のパートナーを、実質失ったことになる…。まあ、オレたちはどっちも還暦だし、さもあらんというところは、実際あるが…。だからこそ、今回は特段なんだ。ふふ‥、明日はその上でのオレたち流の密会となる…”


裕一はこれまでの”前夜”以上に気持ちが高揚し、思わずコーフンしちゃっていた……。