いつもお世話になってます。
 稲本庄吾さんと陽鞠さんに以下のお願いをします。

 ・身代金1000万用意すること。
 ・さーちゃんと元夫の復縁。
 
 警察には絶対言わないでくださいね。
 相談すると、あなたたちのことが世間に知られてしまいますよ。
 お願いが受け入れなければ、このようなことになりますけどいいですか。

 庄吾宛に送られた捨てメは、身代金と"さーちゃん"と元夫の復縁の要求だった。
 送られたのは11時半。
 庄吾が勤から子供達が来てないと言われた矢先にこの脅迫メールだ。

「なんかこの文章腹立つな」
 庄吾は眉をしかめて努めて冷静に振る舞う。
「お父さんなんて言ってる?」
「警察に連絡して、家族と一緒に捜索している。川口さんが両親の代わりに別荘へ連れて行ったはずじゃ……」
「そもそも川口さんが代わりに行くのも変じゃない? あくまでもお義父さんの秘書みたいなものだっけ?」
「うん。ただたまに父さんが都合つかないときとか、予定変更になったときは、川口さんが代わりにすることある。前の押田(おしだ)さんの時もそうだし、それが普通だったかな」
 陽鞠は押田という名前を聞いて思い出す。

 川口同様背が高く、凜々しい目つき高そうなスーツを着こなしているおじさんという印象。