後藤永津子(ごとうえつこ)(72)
 
 私は呉松さんとリハビリの担当の先生が一緒なんです。
 だから2人一緒でやることが多いです。

 少し前でしょうか。恥ずかしながら、私、転んじゃって、家族を心配させました。

 その日、呉松さんの部屋の近くで一緒にリハビリをしていました。
 訓練中にリハビリの先生が誰かに呼ばれて、私と呉松さんだけになったんです。
 先生から「ちょっと休憩していいよ」って言われたから、お言葉に甘えて、ベンチに座ってました。
 そしたら、呉松さんが私の杖を貸して、どんな感じか試してみたいと言い出したんです。
 
 私も言われるがままに、貸したんです。
 呉松さんは自分の部屋まで持って行って「ここまで取りに来てよ。そしたら返してあげる」って。
 
 私の杖は、4つ支える所があるタイプです。
 それが珍しかったんでしょう。
 対して、呉松さんは1本のタイプです。
 
 取り返したいから、頑張って立ち上がって、呉松さんの杖借りて、彼女の部屋に向かおうとしたんです。
 そしたら、ドアの段差にひっかかって、転んでしまいました。
 その後は……気づいたら病院でした。
 正直全然覚えてないんですけどね。


 職員さんや他の利用者から聞いた話です。

 呉松さんはベッド上に私の杖を置いた。