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「泣かないで、爽」

 なぐさめながらも、その涙が私のためのものだと知って、喜びを感じてしまう私は罪深い。

「さくらが好きだって気づいてたのに……僕は茜さんを切れなかった……こんなことなら……なぜ早く僕は……」

 嗚咽の合間に告げられる言葉に胸が苦しくなる。
 もう痛みもなにも感じないはずなのに。
 爽は約束どおり心をくれた。
 もうそれで充分。

「爽、私も好きよ。ずっと好きだった」

 いっそう泣き声が大きくなった。

「さくら……!」

 愛しい人を眺め、私は祈った。

(神さま、もしいるのなら、この人からお姉ちゃんと私の記憶を消してください。私たちを忘れて幸せになれるようにしてあげてください)

 心からの祈りに応える声があったような気がした。
 うまくいくような気がした。

「爽、大好き。幸せになってね」

(ほら、忘れて、ワン、ツー、スリー)

 パッと私は姿を消した。

「あれ? 僕はここでなにを……? なんで泣いてるんだ?」

 爽のひとり言を聞きながら、私は微笑んで目を閉じた。
 幸せになってね、爽……。



─fin─


<蛇足>
イケオジになった爽と転生したさくらが再会するのは十七年後……。