今日は試験日だった。

 だからか、普通科と登校時間が被っている。

 いつもは普通科よりもはやい登校だから、こんなに人がいるのは新鮮に感じる。

 この通学路を歩くようになってだいたい一ヶ月。

 もう大分この景色に慣れて、道に咲いている花なんかを見る余裕もある。

 学校に着いて門を通り抜けて、ふと顔を上げた。

「え……」

 そこには、春樹君に似た人がいた。

 でも、その名前を呼んだのはわたしじゃなかった。

「春樹君っ」

「留衣。おはよう」

 同じ名前。留衣。

 同じ名前の、わたしとは全く別の女の子。

 春樹君がその人に向ける表情、それはただの友達なんかじゃなくて恋人に見せるもの。

 押しつぶされそうになった。

 身体も、心も、すべてが。

 分かっていた。もし会うことができてもきっと、春樹君には恋人がいる。
 
 だって、春樹君はそれくらい素敵な人だから。

 でも。

 いざ目の前でわたし以外に笑顔を向ける彼の姿を見ると、耐えられなかった。

「春樹君」

 わたしの声は彼には届かない。

 同じ名前の女の子は、春樹君の肩に触れる。

 腕に触る。

 わたしも、春樹君に触れたいのに。