ぽんぽんと、頭の載ったレオン様の手が慰めるように動く。
「じゃあ、早速礼拝堂へ行って祈りを捧げなさい」
 目元を手で拭って、返事をする。
「ハンカチくらい使いなさい。ミラ……せっかくのかわいい顔が台無しです」
 レオン様がハンカチを取り出して私の目元に押し当てる。
 か、かわいい? ドキリと心臓が跳ねる。
 王子様が私のことかわいいって……。と、十二歳のころから何度心臓が跳ねたことか。
 でも、それは子供に対するかわいいという単語だってことはわかっている。
 私ももう十七歳なのにな。十八歳になったら結婚するくらい大人なのにな……まぁ、婚約破棄されて結婚はなくなったけれど。

 礼拝堂へ移動すると、神への祈りをささげている人たちが四、五十人ほど膝をついて両手を合わせていた。
 巫女の仕事の一つは、その人たちの願いを神に届ける手助けをすること。
 神像の祭られている祭壇の前に歩み寄り、両膝をついて頭を垂れる。
「神様、どうぞ彼らに祝福のあらんことを」
 両手を広げて、神像へと向けて魔力を放出する。
 キラキラと光の粒が指先から出てどんどん広がり、礼拝堂に詰めかけた人々の頭上から降り注いだ。
 降り注ぐ光は、ある者は頭上でピンクに光ってはじけ、ある者は緑に、黄色に、赤に……色とりどりに光ってはじけて消える。この瞬間が大好き。
「あー、綺麗……」
「本当に美しい光景だ。まったく……これほどの力を持っているのに聖女じゃないはずはないだろうに……これを見ても聖女じゃないと言うのか」
 背後からレオン様の声が聞こえて慌てて立ち上がり、逃げるように祭壇を降りようとしたら、腕をつかまれた。
「王宮では祈りを捧げなかったのか?」
 やばい。思わず目が泳ぐ。
「まさか、祈りの言葉を間違えたのか?」
 うっ。バレてる。
「はぁー。だから、あれほどちゃんと覚えなさいと」