耳元でレオン様の声が聞こえる。
「あ、あの、私が……怒らせてしまうんです……それに、いつもじゃなくて、聖女になってからは……その、困った顔をさせてしまう方が多くて……あ、呆れられてるのかも……」
 ふぅと、レオン様が息を吐き出す音が聞こえ、首筋にかすかに息がかかってぞくりとする。
「そうだな……最近は困ってばかりだ……。今も、ミラ……どうしていいのか分からない」
 えええ、やっぱり私が、困らせてるの? 
「聖女じゃないと言われた……から……ですよ、ね?」
「違う、そうじゃない。ミラが泣いているから困っている。私はミラの笑顔が見たいのに……どうしたらいいのか、分からず困っている」
 え? 私の笑顔? 
「私の笑顔を見たら、レオン様は元気になりますか?」
「そうだ。お前と巡業奉仕をするようになって、ミラの笑顔に何度励まされたことかわからない」
「え? 私、そんなにへらへら笑ってましたか?」
 やばい。レオン様と一緒に過ごすことが嬉しくてにやにやしてた? お仕事で出かけるわけだし、にやけないように我慢してたはずなんだけど…。
「……ありがとうと感謝されるたびに、皆の顔を見て、お前もいつも笑顔になっていただろ?」
 レオン様が私の鼻の頭をつんと人差し指でつついた。
「え? えええ? 私、しっかり表情引き締めてたつもりなのに……」
「他の巫女たちは、感謝されて当然といったすました顔か、自慢気な顔をするのに、一緒に笑うとは変わった巫女だと思ったよ」
 もしかして、庶民出身で貴族として教育を受けていないから他の巫女と違うだけなのでは? 
「私も、神殿長としての仕事は、単なる義務を果たしているだけだと思っていた。だが、ミラを見て気が付いたんだ」