「ねえ、聞いた? ミラってば、婚約破棄されて戻ってきたらしいわよ?」
「ああ、生意気にも庶民から聖女の称号を得た小娘が婚約破棄されたって? でも、聖女を皇太子妃にと望まれて婚約したのにどうして?」
 東神殿に務める巫女たちは、今日も祈りをささげるよりもうわさ話に花を咲かせている。
「なんか、偽物の聖女だと判明したんですってよ?」
「まぁ! やっぱりね! 生まれも高貴な私たちを差し置いて聖女なんておかしいと思っていたのよ!」
「で、新しい聖女が皇太子と婚約したの?」
「そうみたい。西神殿のソフィア様が新しい聖女になったそうですわ」
「まぁ、伯爵令嬢のソフィア様が? それならばこの国も安泰ね」
 この国はもともと東の国と西の国の二つに分かれていた。
 それぞれの国の中央神殿は、今は西神殿と東神殿として勢力を争っている。
 現役の聖女を輩出した神殿が「中央神殿」を名乗ることが許されているのだ。

「ふえぇーーーん、神殿長様、ごめんなさい。聖女を首になりました」
 私、ミラは茶色の髪に薄茶の瞳の十七歳。
 十二歳で癒しの力があるといわれ神殿に入った。それから五年が経った。
 一年前に聖女だと言われ、半年前に皇太子と婚約し、三日前、皇太子に偽物めと罵られ、婚約破棄を言い渡された。
 婚約者に迎えられたときは、城から立派な馬車が迎えに来たというのに、帰りは歩いて二日かかる距離を、一銭も持たされずに城を追い出されて終わりだ。、道行く人たちの怪我や病気を治したり、解呪したり浄化したりして、お礼にいろいろ貰って食べるには困らなかったけれど。
「ふえぇーーんと言っている割には、笑っているように見えるね」
 神殿長が、プラチナブロンドの長い前髪をかき上げて私を見た。
 いつもは前髪に隠れているアイスブルーの切れ長の瞳が見える。