少女は高所恐怖症だった訳で❣


高校受験を半年後に控えた中学3年のキリコは、そのストレスからか、生来の”あの発作”に再び悩まされていた。

それは…。
高い場所から転落するという恐怖観念で心臓がばくばくして、ひどいときは手足の痙攣が数時間止まらないこともある、そんな、幼少期からの高所恐怖症に起因する精神的現象であった。

で…、そもそも、キリコが極度の高所恐怖症に陥ったキッカケはというと…。

彼女の決定的な記憶としては、小2の時に親しい近所の家族と連れ立って、埼玉某所にある初心者向けの山登りに出かけた時のこと!

その日…、頂上に到達するまでのキリコは”平気だった”のだが…。
山頂から見下ろした風景(フツーの感覚では文句なしに心洗われる絶景‼)を両の眼下に収めた途端、もう一発でやられた!

”いつもは見上げていた、遠い天空でふわふわ浮いてる雲を、何で私が見下ろしてるのよー”
まずは、彼女の胸中にはそんな自問自答がもわもわと湧いてきたのだ。


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要はそこまで遠~い、高いところまで自分は辿りついて、今”そんな場所”に立っているとリアルに悟ってしまった瞬間…、もう怖くて怖くてしょうがなかったと!

目に入る山々の壮大さで圧倒され、7歳の少女はブルブルと足が震えて全身は脂汗状態となり、しゃがみ込んでしまったのだった。

もう、この観念にいったん陥ると、山頂の展望台を囲む柵が今にも外れそうで仕方ない。
もし、今直下型の大地震が来たらどうすんのよ!と…。
最も津波は大丈夫というプラス思考はしっかり、頭の隅に浮かんではいたが…。

なので…、とにかく実際、崖際5M以内は怖くて近づけない。

もしかすると彼女の場合、”その延長”を想像するイメージ感が人並外れて先鋭的だったのだろうか。
それは…、高いところから落ちたらどーなるのかと!

”ちょっと待ってよ!こんな高いところまで来て、もし無事降りれなかったら…、落ちたらどうするの?早くおうちに帰りたよ。怖いよ~”

そんな恐怖感が、直感的に幼い脳裏に宿ってしまったのかもしれない。
今悩まされているあの”連続夢”は、この恐怖感が手繰り寄せた不可思議な心理現象とか…。

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つまりキリコの場合、恐怖感が山頂を踏破した達成感を飲み込み、今実際、そんなとてつもなく高い場所に自分がいるという不安…。
それはトラウマのレベルに達し、以降、彼女の心の奥深くに根付いてしまったようで…。
これは深層心理的なメンタル作用で、理屈ではないのかもしれないが…。


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とにもかくにも…!
この出来事を境に、ビルの屋上はもとより室内の窓からの風景も地上3階以上はカンペキNGという、コテコテの高所恐怖マインドがキリコには植え込まれた。

キリコの3歳上になる姉のミクコは、そんな妹によく言っていた。

「…私なんかに言わせりゃあさー、高いとこより、狭くて暗いとこの方がよっぽど怖いって。キリコとは真逆だね(苦笑)」

そうであったのだ‼

極度の高所恐怖症であるキリコは、一方で狭いところ暗いところは平気…、という処で止まっておらず、なんと…、暗くて狭い場所…、具体的には押し入れやクローゼットの中が大好きだったのだ。

何しろ、小さい頃から布団の収まってる部屋の押し入れに入って、ふすまを閉め、真っ暗なその狭い空間でウトウトするのが”趣味”に近かったのだから…❢


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その一風変わった癖(ヘキ)は、中3になっても続いていた。
で…、秋も深まったある日中…、中間試験から帰ったキリコは真昼間から、お楽しみの押し入れ寝タイムを過ごしていた…、のであった!

もっとも、”お年頃”になった彼女のうとうとタイムのおかずは、”ステキな王子様”妄想がもっぱらであった。
要するに、恋に恋する中2少女は、暗い押し入れの中でそのトキメキを開放させていたのであるから…、家族はそんなキリコをとても心配していた。

そしてその日も、午後1時ごろから30分ほどは、膝でリズムをとりながら鼻歌を歌っていたが…。
やがて、ただ今夢中な某イケメンアイドルとお手々繋いでとかのほっこり妄想でニヤニヤしながら、いつものようにウトウト…、となっていた…。