その3



その儀式は、節分の日に来たるべき新しい季節が災いなく、実りあるものでありますようにと願いをこめ、川に”捧げもの”を投げ込むというものでした。

「オヤジの友達は、仲間に野良猫を一匹ずつ捕まえることを命じた。気の弱いオヤジは猫を持参することができなくて、ガキ大将からゲンコツをもらって、その場で儀式を見学してろと強要されてさ。合計4匹の猫は袋に詰めこまれ、川に投げ込まれたんだ」

儀式では、動揺『春の小川』の替え歌をみんなで歌い、歌い終わった後に、”捧げものをお引き取り下さい!”と、大声で叫んでから、最後に”沈め―!”とみんなで何度も連呼するというのです。

「…オヤジは恐くて口をパクパクするだけで、実際には声は出さなかったそうだ。だが、みんなが何度も”沈め!”と繰り返した後、スーッとズタ袋は川に沈んだ。みんなが大喜びでガッツポーズをとってると、急に空が暗くなり、霧がかかった。すると、川の水面がぶくぶく沸き立って、やがて霧の中から長い髪の人間らしき物影が川原へ向かってきたそうだ」

この辺りで、私はもう鳥肌がたってきました。
結局、仰天したみんなは全員、一目散で川から立ち去ったそうなんですが…、その後、リーダー格の二人は病気がちになり、1年経つと二人とも引っ越していなくなっていたそうです。


...


「オヤジがその後、伝え聞いたところじゃ、二人は事故だか病気だかで間もなく死んだってことだ。だから、そんな恐ろしいこと、絶対やっちゃダメだぞって言われたよ」

私はここで嫌な予感がしました。
ペット嫌いな父が、大人なってからの私に神妙な顔で告白した前段の話が、おじいちゃんのこの恐怖体験だったのですから…。

そして…、私の悪い予想は的中してしまいました。