その4


「…ガス業者の”世間話”はまだあったんだ。あそこの建売現場の基礎工事を行った業者の現場監督が自殺したらしいってね。麻子‥、このことを業者として耳に入った限りは、あくまでその範囲内ではあるが、買主に知らせる業法規定の告知義務に入る可能性が高いんだ。だが、お父さんは何も告げずに引き渡してしまった…」

父は沈痛な表情で絞り出すように私に告白しました。
実はその日、どうしても延ばせない支払いがあって、買主から残代金を受け取らないとまずい状況になっていたそうなんです。
それで、お客さんへの告知を怠り、黙って引き渡したというのです。

この時の父はとても辛そうでした…。


...


「その後、何もなかったら、今頃お父さんも忘れてしまったかもしれない…。何しろ、また聞きの範疇だったから…。だが…、その現場を買ったお客さんが新築を建てて住み始めた直後、その家の子供が小学校のプールで溺れ死んだって聞いたんだ」

「でも…、それ、別に…」

「ああ、そこの土地にまつわる因果が原因とは言い切れない。当時は俺もそう思いこむことにした。だが、時々夢に出たんだ…。そこの現場に建った新築の家が…。それで…、庭に沼があるんだよ。しかも…、決まって、例の年配の女性が佇んでるんだ」

それからずっと、父の頭の隅から現場のこと、新築に住んでいる買主さんのことが離れることはなかったそうです。


...



「…それから長い年月が経って、お前たち3人が巣立った…。子供たち皆が結婚した後な、お父さん、その現場のこと調べることにしたんだ。いや、前々から決めていたことだった。いつかはと…」

そしてその結果…、当該区画整理事業にまつわる様々ないわくの絡む過去が明らかになったそうなのです…。

「どうやら、昭和50年代後半に施工されたその区画整理事業は市と一部地権者サイドが癒着して、好き勝手に一部の地権者への不公平な換地処分を行ったようなんだ。その辺りな…、古くからいわくつきの沼を埋め立てた場所とかがあって、整地して工事が完成したら、地元以外の地権者に換地して振り分けたりね」

「…」

私はすでに、背筋が寒くなっていました…。