その3



「…工事が終わった後、社長が亡くなったんだ。特に持病もないがたいのしっかりした人だったが、心臓発作っていうことだったよ。…更地になって、引き渡し間近かのある晴れた午後、境界の確認で現場に行った時だった…。現場で年配の女性が声をかけてきてね。それで、全く”同じこと”を言ったんだ、その女性‥」

解体業者の社長が見た夢と同じだったのは、その言葉だけでありませんでした。
父も言葉をかけようと思ったら、すでに姿が消えていたそうなのです。


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「なんか、不思議な感覚だった。白日夢を見ているような…。その時だけ頭がぼんやりとして、空気が淀んでいる感じがした。やはり気になったが、なにしろ、早く引き渡して資金を回収したかったからな。当時、麻子と真二が中学と高校に上がる時期で、生活に余裕がなかったから、お父さんも必死だったよ。…それで、引き渡しの数日前に聞いてしまったんだ。”あのこと”を…」

その当時‥、私達家族は何しろ円満で、子供心にも父の仕事は順調だと思いこんでいました。
でも、実際は私たち3人の学費とかで、家族には見えないところでしんどい思いに追われていたんだと、改めてわかった気がしました。

そして、資金回収できる直前に父が耳にしたのは…。

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「…たまたま、知り合いのガス業者と別件で打ち合わせしていたんだが、ウチがM町の現場を販売してたことを知って、あくまで世間話として、ある話をしてくれたんだ」

それは、その現場が区画整理事業の造成工事を行った当時、区画整理組合の理事と地権者達によって、従前地の造成工事の際に採掘された”いろいろなもの”の埋設個所としてを申し合わせしたピンポイント地あたりであったようなのです。

ガス業者の人は、父が買い取って販売した現場あたりが、”そこ”の場所に近いと聞いたことがある…、と言ったそうなんです。