その3


母は私の目をじっと見つめながら、話を始めました。

「…お父さん、子供の時分から盗難癖を持っていたみたいなの」

私は母のいきなりの一言に耳を疑いました。
咄嗟に、”ウソでしょ?”…、と心の中で叫んでいました。

「その細かい記録がカプセルに入ってるそうよ。いつ、どこで何を盗んだか…」

「ちょっと、待って!なら、お父さん、そんな数えきれないほど…」

私は最後まで言葉が続きませんでした。


...


「正確にはカプセルの中のメモを確かめないとお母さんもわからないけど、日常的にやっていたということだから…」

「…」

私はすでに頭が真っ白になっていました。
と、同時に、すぐにいくつものことが点と点で結ばれたことも認識していました。

長男の万引きが発覚したこの場で、あえて母が父の盗難癖を告げると言うことは、おのずと何らかの意味があると考えざるを得ませんでしたから…。

「…あなたにはショックだったと思うけど、いろいろ補足しなければならないことがあるの。お父さんの祖先とか…。とりあえず先に言っとくと、今回の翔太の万引きにも由縁する話に及ぶわ」

私はもうその時、めまいがしてきました。
正直、これからの母の話を聞くのが恐い…。
できれば今日は遠慮したい、そんな気持ちでした。

しかし、ここで父の過去を知ってしまったからには、母からの話を聞かずに翔太と接する訳にはいきません。
私は覚悟を決めて、今まで私の知り得ることのなかった父の”秘匿”と向き合うことにしました。