その2



「まずは、これを見てみて」

母は私に、地図らしきものが描かれているメモ書きのような紙を差し出しました。
それは地図と言うよりも見取り図みたいなもので、明らかに実家の庭のある位置を図示したのもでした。

「そこの場所、柿の木の脇を1M掘ったところに、お父さんが子供の頃に書き綴ったメモが入った入れものが埋まっているらしいの」

私はいきなりのことで、母の言葉が即呑み込めませんでした。
”それ”が埋まってることの事実はもちろん、そのまま解釈できますが、一体、何の目的でどんなことが書かれているのか…。

...


そんな私の心の問いかけに応えるかのように、母は端的に告げました。

「…翔太の母親としての、美穂への告白になるわ。それはお父さんが子供の頃に行った行為…、ううん、犯した行為になるわね」

”犯した”行為…。
私は”何かの犯罪なの?”と聞きたい気持ちに駆られましたが、とどまりました。

父は医療関係の仕事に就き、言わば真面目で犯罪などとはおよそ無縁な人間でしたから…。

「お父さんね、今から美穂に話すことを私に告げた時、もし自分が”その時”になって、この地図を渡せないような状況であれば、私からって言ってね。それで美穂の手で、その言わば自分で埋めたタイムカプセルを掘り起こして、中のメモを読んで欲しいと…。あなたの結婚が決まった直後だったわ。私がそうお父さんに頼まれたのは…」

母はいたって冷静な面持ちと口ぶりでしたが、どこか仰々しいその様子から、やはり今から聞くこと、それにタイムカプセルの中味はショックを受けることなんだろうと想像できました。