その6



「あの子の言った言葉、今でも耳に焼き付いてるわ。涙を浮かべて、”こんなのもの、ちっとも効き目がない!ウソつき!”って…」

彼女はそう言って、母の目の前でカードをびりびりに破いてしまったそうです。

そして泣きながら、”こんなモノ、こそこそ渡すくらいなら、みんなの前で堂々と私と仲良くしてれればいいじゃないの!あなたは偽善者よ”と、母に吐き捨てるように訴えたそうです。

「お母さん…」

「私はエイジ君の頼みを果たせなかったわ。所詮、お母さんは一時、いじめっ子に目をつけられた程度で、ずっといじめに遭ってきてる子たちの気持ちなんか他人事で捉えていたのよね。そんな人間に、エイジ君のような行動は無理だった訳…」

母はこの件を伝えねばと、エイジ君が転校する時に聞いていた北海道の連絡先に電話をしたそうです。

「…エイジ君、亡くなっていたわ」

「!!!」

私は思わずつばを飲み込んで絶句しました。


...


「…電話に出たおじさんに当たる人は、急な病気でって言ってた。そのおじさんね、エイジ君が年中転校していたので、いじめに遭ったり友達ができないんじゃないかって、いつも不安だったっと…、そう言っていたわ。それでね…、私に、友達になってくれてありがとうってお礼の言葉もくれた」

ここで母の目からは涙が溢れだし、ハンカチを目にあてがいながら話を続けました。

「…お母さんはね、エイジ君との約束を果たせなかったのよ。そのことを告げようと思った時は彼…、もうこの世にいなかった…」

母のその時の気持ちは、幼くして他界した彼の無念さと、自分がエイジ君の気持を本気で汲取っていなかったという自責の念が入り混じっていたのではないでしょうか。

「彼は転校する前の日、さらっと口にしたのよ。目力を使った自分の能力を子供の内から使いすぎると、早死にしちゃうんだって。ちょっと笑って、冗談っぽく。私はこの言葉を思い出して、彼は20人に託したカードへ、転校した先でも念じ続けてくれてたんだって…。そう確信したわ。それなのに…、お母さんは一級上の子に質すこともせず、自分のカードは適当な相手に押し付けて…」

母は、エイジ君への申し訳ない気持ちをずっと胸に残して生きてきたんだ…。
私は肩を震わせて嗚咽する母の姿に涙を浮かべながら、そんな思いを抱かずにはいられませんでした。

...


「…お母さんね、テレビとかでいじめのニュースを目にする度、エイジ君のことを思いだすのよ。そのうち、思うようになったの。彼、本当は自分が転校していじめに遭うことを怖れていたんじゃないのかなって…」

少し落ち着いた母は、再び告白を続けました。

「…学校を移る前は友達ができるか、いじめに遭わないか、不安に駆られていたでしょうね。でも彼なりの努力で、いじめのターゲットにならない術が身に付いたのね、きっと。そんな彼の目に入るのはいつも、前の学校と同じ、いじめで苦しむ子達の姿だったのよ」

当時は思い至らなかったエイジ君の胸中を、母は後年になってこのように量れたのでしょう。
母はしみじみとした口調で続けました。