その1
神奈川県在住  友田清子(仮名)39歳



あれは2年前のことでした…。
母に先立たれた父が内臓疾患で長期入院していた春先、私が見舞いに訪れた時、”その話”を聞かされたのです…。

その日…、父は比較的体調がよく、私達親子は時折笑い声を交え、雑談に花を咲かせていました。


...


「ああ、直人の入学祝いありがとうね、お父さん」

「いや、少なくて悪かったな。…で、どうだ?直人は元気で小学校行ってるか?」

「うん。直人は上の子二人に比べて内気だから、ちょっと心配してたんだけどね。入学直後はなかなか友達も出来なくて、盛んにペット買ってってねだったりしてきてさあ。でも、連休明けぐらいから友達ともよく遊んでるわ。最近はペットもねだらなくなったし…」

「…そうか」

「そう言えば…、私が子供の時も猫とか犬飼いたいって、よくねだったわよね。でも、お父さん、絶対ダメだって聞かなかった。おぼろげだけど、それはよく覚えてるわ。お父さん、動物嫌いだったんだよね?」

「…俺が嫌いだったのは、いや…、怖かったのは動物の眼だったんだよ、清子」

「えっ?」

その時の私には、父の言っている意味がピンときませんでしたが、父の表情はどこか思いつめていたように感じました。


...


「実はな…、動物の目が怖くなったのは、俺が中学に上がってすぐの、ある体験が原因なんだ。今までずっと話すことはなかったが、もう先が短いし、一人娘の清子には言い残しておきたい」

父は大げさに言えば、まなじりを決したかのように、改まった顔つきになって、”その体験談”を語り始めたのです…。