NGなきワル/バイオレンス長編作完全版!👉自らに過酷を課してのし上がったワルの非情とどうしようもない”ある焦がれ”…。

その7
南部



「なあ聖一、もう女も男もない。今からそういう感覚を持ち続けけた方がいい。これは、誰にでもできることじゃない。頭ではわかっていっても、要は心裡の問題だ。口で言うほど簡単じゃないさ。それを、お前ならできると思う。これから先、日本も世の中がガラッと変わっていくんだろうよ。そんな背景が、水を得た女たちをドンと後押しする。で、彼女達はボーンと天にぞびえるハードルまでも飛び越えちまう…。最近はそんなことまで確信を持つようになったわ」

黒原さんはこのオレに、言わば何かを託したかったのかも知れない

その何かとは…

...


「聖一…、盛くんね、アンタが紅ちゃんと手を携えあう仲に持っていけたら引退するつもりだったんだよ」

「奥さん…、それ、どういう意味なんでしょうか?」

「意味も何も、紅ちゃんはもうこの地の猛る女達を発熱させちゃったから、この流れは止まらない。まずはそこよ、聖一。…でよ、アンタ達の集団も無関係ではいられない。仮にアンタたちの前に立ちはだかる存在が現れたなら、彼女たちもその問題の当事者になるよ。望む望まないに係わらずね。そんな考えに達していたのよ、あの世に逝っちゃうちょっと前にはね、盛くん…」

「…」

「この都県境はどんどん女が猛っていく。グループが乱立すればそれなりにいろいろもめ事が出るよ、そりゃあさ…。今は紅ちゃんの存在がそれを留めてるけど、盛くんと同じで、あの子が引退なりって時は今のアンタたちのようになる」

「奥さん…」

オレは相槌程度の言葉しか出なかった

...


「…この地ではさ、もう男も女もなしの、ひと固まりで考えて行く必要があるってこと。この国の社会背景も含めてね。その際、何も一つの集団になる必要はない。盛くんの実践した少数グループ併存を土台にして、しっかりした人間がその上にね。でもまあ、それがなかなか難しいのは聖一たちが一番よく知ってるわよね」

黒原さんの未亡人・吹子さんは、ここでちょっと意味ありげな笑いを浮かべながら続けたよ

「…だからね、明確な理念をその上に置けばいいのよ」

理念‼

人間の代わりに理念ってか…!

「…そうすれば、何かコトが起きた時もさ、まあ自然と行きつくべきところに辿りつくでしょう。…まあ、これ以上は私なんかの語彙能力じゃ伝えきれない。ここまでで、よくかみ砕いてもらうしかないわね。…時間かかるのを承知で頑張れ、アンタがさ…」

その後、吹子さんの言葉の深意は、オレなりにかみ砕いたつもりだった

その上で、今回の行動ってことだ

まずは正面からぶつかってみないとな

じゃなきゃ、何も始まらないさ


...


門前仲通りのZ前に着くと、ちょうど1台のバイクから降りてヘルメットを取った”仲間”が、こっちに駆け寄ってきた

「おお、聖一!ちょうど俺も今到着したとこだ。一人か?」

「真ちゃんか!砂さんとかには織田が連絡して、おっかけこっちへ来るよ。他はもう中かな?」

「さあ…。どうする、皆が来るまで待つか?」

「いや、俺たちだけでも先に入って”話”は進めよう。砂さんが来る前だろうが、先方の出方次第でこの前申し合わせした通り行こうや」

「よし、わかった。返って二人の方が手っ取り早いかもな。先に火を点けちゃえば、砂さんたちもこっちのペースで持ってけるしな」

「ああ、だが、あくまで連中の言い分を聞いて、事実確認もした上でだ。そんで四の五のヌカしてくれば、体でわかってもらうしかない」

「ふふ…、承知だ」

積田真二郎は墨東会のメンバーで最も気の合う男だ

コイツにはオレの考えに同調してもらい、今日の段取りはすでに伝えてある

さあ、行くぜ!


...


で、店に入ると…

「いらっしゃい…、純血さん。今日は貸し切りだ。従って、お互い遠慮なしでやれるぜ」

店内をひと通り見回すと、仲間は他にいなかった

そんで、”元仲間”だった、今日向き合う相手は5人だ

さらに店内は客も店の人間らしき人、更にこいつらと"つるんでるはず"
の愚連隊系らしきメンツもいないようだが…

まあ、肝心の御仁が目の前なんだ

よし、はじめよう…

...


「ああ、まずは自己紹介だな。二人とも墨東会だ。オレは南部聖一ってモンだよ」

「オレは積田真二郎だ」

積田とオレは目で合図しあうと、互いに数歩、少しの距離を保った

二人は暗黙で”配備”を敷いたって訳だ

「ああ、二人とも顔は知ってる。だが、腹の中はさっぱりだ。今日は”それ”、しっかり晒してもらうぜ」

背はさほど高くないが、いかにも俊敏そうで鼻っ柱の強いこの男がリーダーのようだ

...


「おい、こっちは自己紹介してんだ。演説の前に名前ぐらい名乗れよ!礼儀だぜ、それがさ」

積田の真ちゃんがそうかましてくれたわ

すると…

「ああ、すまんな。何分、在○ってことで、勘弁しろ。…オレは黒原さんに命を捧げたっていいと思っていた人間でさ、高本健一って名だよ!」

何と、いきなりここまでの口上かよ!

いい悪いは別にして、歯切れよくて助かるわ(苦笑)