その9


「ふう…、なんとも凄惨な…。しかし、あの相和会ってのはそこまで…。でも、囲ってた愚連隊のナマ指を、文字通りガキの使いに届けられて、星流会はご苦労さんってことかよ?」

「まあ、ニュアンス的には、そんなふうに受け止められますが、坂内会長の解釈では、星流会の諸星さんも今回は”暗黙”だったんじゃないかってことですよ」

「はー??どういうことだよ、それ‼…もしや、初めから、出来レースってことなのか、諸星ー相馬間のよう!」

ノボルはもう前のめりで、テーブル越しの椎名の顔にくっつきそうだった。

”相馬豹一と相和会についてはいろいろ聞いてはいたが、実際にここまでなのかよ…‼”

北陸からの長旅の疲れも忘れ、今の大打ノボルは、相馬豹一と相和会をとにかく知りたいという欲求に支配されていた。

...


「”それ”に近いだろうと言うのが、諸星さんの親筋である坂内さんの見解らしいってことです。折本さんが言うには…。それで、その際の諸星さん側のメリットはどうなのかと尋ねたんですが…」

「おお、そこだよ、そこ。オレもそこんとこが知りたい。何と言ってたんだ、折本さん…」

「まず、今回の絵図は諸星さんが描き、それを受けた相和会が組立てと結末を用意したんだろうと…。加えて、返す刀でさあ、これでどうだと…。その流れの中で、諸星さんが黒原亡き後のガキを抱えることを許容した…。ただし、以後、ガキをぶつけて我が相和会に挑もうものなら、部外者のガキでも血を見る。これを見よ、容赦はしないと…。覚悟せいって…、ってとこみたいです」

「かーー‼渋いな、相和会ってのは…」

「それでさらに、相和会の一連のアクションを精査すると、東龍会の結論はこうです。…ガキを押し出してきたなら、ガキでぶつけ返す。今度は”それなりのガキ”で来いというメッセージを感じたと…」

「…相和会が、東龍会の子会社社長の諸星さんにそう言うメッセージってか…。おい椎名…、それってことなら、お前…‼」

ここで椎名は誠に思慮深い表情で、大げさに表せば、この大打一家を成す大番頭格は、まなじりを決してノボルへの死ターンを放った。
そういうことだった。

「ノボルさん、そう言うことになる!…相和会のカリスマ親分、相馬豹一の深意は…。坂内さんは、その相馬のモチベーション…、持ち前の遊び心からの突き付けだろうと踏んでるようだ」

「…」

もはやNGなきワル、大打ノボルも、発する言葉を失っていた…。


...


「…あの武次郎も言ってました。そういう展開なら、こっちへ引き上げ来て正解だったと。あの場で留まっていたら、相和会にどんな役どころを背負わされていたかしれないと…。ふふ…、アイツ珍しくビビッてました(笑)」

”まあ、そんなとこだな。やはり…、御手洗の感覚は正解だったって訳だ。オレの仲間は皆いいメンタルで助かる(苦笑)”

この後も二人は、諸々の事案について約2時間のミーティングをこなした。
長旅から戻ったノボルには、休息の2文字も遠慮気味だったようだ。

「…それで、諸星さんの”抱き込むであろうガキ”はもう察しがついてるそうなんで、折本さんがアンタにその人物の件で一度、話をしたいと…。時間のある時に寄ってくれないかってことです」

「わかった…」

東京埼玉都県境一帯のガキ界隈を獲り纏めていた、”大立者”黒原盛弘の急逝を受けたガキ勢力再編と連動した、星流会✖相和会というヤクザ対峙の構図がダークでディープなリンクを内包させた一連の騒動は、”ヒールズリンチ事件”として長く語り継がれる。
そして、この出来事こそ、ここ都県境を席巻することになる猛る少女たちの台頭と危険な反社勢力とのボーダーレスをもたらす遠因となる…。