その3


そしてバグジーへのオーダーは割と早く訪れ、その首尾はカンペキ…。
ノボルをはじめ、椎名や武次郎も、”合格”印を掲げた。

もうすぐ梅雨入りというその日、ノボルは東京埼玉県境からと横浜に戻ってきた。

「…そうか、昨日バグジーがココへな」

「ええ、先週のオーダークリアのペイで…。ヤツ、アンタに会えなくてしきりに残念がってた。今度、手紙書くからと言ってました(笑)」

「アイツ、男に手紙って嗜好か…。ますます深いな、あの暴れん坊は…(苦笑)」

「とにかく毎回仕事はパーフェクトだし、ヤツなら殺しだって訳ないでしょう。今度会ったら、オレからでも聞いてみましょうか?」

「いや、ヤツのNGはオレが直に確認したい。タイミングを見てな…」

「…」

ここでの椎名はこれ以上、触れなかった。


...


「次に…、先程の星流会事案に戻りますが、諸星さんの愚連隊連中を使った大宮のかち込み計画が固まったそうで、折本さんがアンタにその案件で説明したいそうなんで…。時間のある時に寄ってくれないかってことです」

「わかった。やっぱよう、椎名…、東京北部とこっちの本拠横浜との中間に拠点が欲しいな。なんか最近地価とか上がってるようだし、今のうちに確保しとこうや」

「そうっすね。テナント料もどんどん上がってるし、早めがいいかもしれないか…。じゃあ、都下H市周辺でオレが当りつけていいですか?」

「ああ、それは任せる。H市内とかなら問題ないだろうしな。まあ、今週末には東龍会に行ってくるわ」

「頼んます。それにしても…」

「どうした?なんか、あんのか?」

ここで椎名は大きく肩で息をつき、目を細めてノボルにとつとつ調で続けた。





「いや…、とにかく、星流会は実にまめですね。常に地元のガキ界隈には目配りを怠らない…。相和会への動向にも…。坂内会長がなぜ一子会社にって疑念も少なからずあったが、自分が坂内さんの立場なら”こいつは使える!”ってなりますわ」

「言えてるな。何しろだ。今のオレたちは、諸星さんの挙動をしっかり検分させてもらう…。できればしかるべき局面は極力近くで見届けたいな」

ノボルは椎名の言わんとするところは理解できた。
その上で、これからの展開に対して、並みならぬ興味を抱いてる気持ちを他ならぬ椎名には、このタイミングで共有したい欲求にかられ、こう切り出したのだが…。

「ノボルさん!ソレって…、要するに、その然るべき時期が来た際、諸星さんが今の愚連隊系からどんなガキをセレクトするのかってとこですね?」

「ああ。果たして、ガキとのパートナーシップを持論として長く唱えてきたあの人が組もうとするオレらの同類連中はどんなかなってな…。もっとも、そのメガネに適った男をゲットする手並みもぜひこの目で見てみたい」

「その局面…、要はそれ次第ですね」

ノボルは思わずクスッと笑いをこぼした。
その心は、”その局面”はまだまだ先だろう…、いつになることやらと言った思いが廻ってのことであった。
この思いは、椎名も同様だったようで、この男も正面の上るに合わせるように、クスクスを繰り返していた。

だが!
”その時”は、二人の予期せぬほど早い時期に訪れる。
しかも、それはあまりにも突発的に…。