その1



年が明けてしばらくすると、大打ノボルは東龍会傘下、関東広域直系2次組織たる星流会のテリトリーである、東京北部に出張った。
そこでは既に前年末、御手洗が3人の手駒を連れて、4軒の店舗管理の下、地元の愚連隊・悪ガキ勢力に面通しを済ませて進駐の拠を張っていた。
よって、ノボルはその下地の上で、東京埼玉県境一帯のガキ界隈とは利害関係なしのポジションにすんなりと乗っかることができたのである。

一方、北海道の秒殺オオカミからは、年明け早々に”本審査”合格の伝を受け、チーム大打は実質、ヒットマンの確保を遂げたことになる。
同時にそれは、禁断の業界越えパートナーシップを結んだ、東龍会のトップ、坂内勇之介への信義を得る大きなメルクマークを踏んだことも意味していた。

そして、その年の3月…。
都県境に滞留中だったノボルの元に、待望の吉報がもたらされる。
それは北海道からだった…。


...


「じゃあ…、ノボルさんはその大男を追って静岡に…」

現地張りつき対象のカラオケ店で、ノボルは御手洗に”出張”の意を告げていた。

「ふふ‥、横浜にちゃんちゃん亭のオヤジから電話が入ったらしい。スカウト対象、静岡の富士市内ってことだ。椎名の話ではその情報、まず間違いないようだって見立てでな。今夜ここを発つ」

「わかりましたよ、ノボルさん。そいつ、握力100でしたっけ?オレより体もデカイとか。ぜひ会ってみたいですばい」

”はは…、御手洗と並べたらまるで兄弟みたいだろうな。聞いてる範囲じゃあ、外見はこいつと完全かぶるしな”

大打ノボルが北海道滞在中にR町の屋台のオヤジに聞き得た、通称バグジーと言う暴れん坊…。
彼は、その大男を”仕事人”としてスカウトする腹だった。

元極道で右耳にはピアスという、その屋台の関西弁オヤジにはその後も、バグジーの所在に関する情報の入手を依頼していたのだが…。
季節が移り替わろうというこの春先になって、かなりの有力情報として、静岡という場所を知られてきたのだった。

...


「…椎名にはあらかじめ話しておいたから、オヤジの好意には丁重に礼を言ってくれてらしい。なんとも律義なもんだ。ありがたい…」

「ノボルさん…」

ここ東京埼玉県境とういう進駐の地で2か月強…、ノボルと間近かで接してきた御手洗は、この男の見るに忍びないほど自身へのストイックさを垣間見るにつけ、表現しがたいやるせない思いを抱いていた。

”この人…、こんな生き方、本当は辛いんじゃないのか…”

だが、生粋の九州男児である御手洗の感性という鏡には、そんな孤高の男がどこか富士山のような美しい休火山に映った。

...


そしてその夜、ノボルは埼玉県境の都内某所を発ち、愛車のスカイラインで静岡に向かった…。
車中…、ノボルは厳寒の地での夜、ちゃんちゃん亭でほうばって食べた味噌ラーメンの香ばしいにおいを思い出していた。

”機会があったら、バグジーとツレで行きたいもんだ(苦笑)”

すでに彼の頭の中では、意中のスカウトターゲット、バグジーにすっかり会えるという気分に浸っていた。

”横浜に寄ることも考えたが、スカウト対象とはどうせ会えるんだから、帰りに報告がてらでいい。フフ…、バグジーさんよ、早くご対面を果たそうぜ…”

愛車のラバーハンドルを握るノボルは上機嫌だった…。