大打ノボルの秘められた黒い意思/運命の舞台、九州で
招かざる産声⑤


みゆきがジェンヌを出て15分…。
ノボルは今、目の前で”作業中”の三貫野を凝視している。

「…オレが幼い頃から回りの人間たちの諸々すべてを常に書き印してKた作業…、その積み上げはオレの進む道の糧となった。マンストック…、それと同じことをやり続けてる人間に、こうした形で出会うとはな…。夢にもってとこだ」

「ノボルさん…、みゆきちゃんの姉の旦那になる人はバツイチ、子供も一人いるらしい。その旦那は幼少の頃、親から虐待を受けて、トラウマも残ってるとか…。それと…」

三貫野はボールペンを走らせているノートからは目を話さず、独り言のように、マンストックに書き足してる内容を口にしていた。

「…熊本へ来て、お前のそのノートを見て思ったわ。レベルが違うってな…。所詮オレのは、”人の範囲”が狭すぎる。対して三貫野、お前は地元中心とはいえ、いくつもの顔で”人の範囲”が多彩だ。その延長でヤクザもんともな…」

「…」

今だ、三貫野は作業の手を止めない…。


...


「…ここへ来てしばらくは、オレもお前を見習おうと言う気持ちだったよ。だが、今は気が変わったわ。お前ほどはムリだとな。マンストックはオレのできる範囲で継続拡大だ。それより、このオレは、自分にできることをもっともっとってことだ…」

ここで、三貫野は手にしたボールペンを止めた。
そしてニコンの銀フレームメガネを外し、ふうっ…と、一息漏らしてから目を細めて口を開く。

「…ノボルさん、オレはいつの日かアンタのマンストックを見る…。それが当面の楽しみなんですよ。それで、オレのこのノート群とアンタのとをガッツリ照らし合わせる…。もしそこでですよ、それぞれにリンクする人物ラインが見つかった時のことを想像すると、ぞくぞくするんですよ、オレ。なぜならそれは、オレ達の歩むこれからのロードにおける血肉となり得るだろうから」

これを受けたノボルは、まさしくドライクールの真骨頂を以って、なんともシュール感を帯びた熱々なリターンを打って返した。

「三貫野!そんな大事なこと、いつかとはノンキすぎるぜ~。…椎名はオレのストックが保管されてる場所を知ってる。すぐ取り寄せてくれ!」

「ノボルさん…‼」

「それと、ハマにも”募集”の件、着手させろ。早急に…。オレも予定を早めて明日、北に向かう」

「わかりましたよ、ノボルさん!まずは”秒殺オオカミ”捕獲の一報を待ってます」

”秒殺オオカミ…‼ヒットマンのスカウトツアーも最初からメインターゲットって訳だ…。何しろ、評判倒れだけはカンベン願うぜ…”

この日、二人の含み笑いは不発だった…。