大打ノボルの秘められた黒い意思/運命の舞台、九州で
招かざる産声④



「そうか…。お姉さんの結婚式で、みゆきちゃん、東京へね…」

”どうやら、ここの店員ともこれでお別れだな…”

既にノボルは熊本を発つことを決めていた。
殺し屋探しの途に着くために…。

だがそんな彼も、居候しているブティック”ジェンヌ”の女性従業員、みゆきの前では紳士の仮面を貫いていたのだ。

「…それで、お相手が何と弁護士さんだってんだから、スゴイなー。ねえ、ノボルさん…」

「ああ、そりゃスゴイ…。はは…」

”三貫野め…。この子の前では意識してオレのこと、いじりやがる…(苦笑)”

...


「私も早く玉の輿に乗りたいですよ。大打さん、誰かいい人紹介してください!私、ヨコハマみたいなおしゃれな街に住んでみたいんですわ」

「いやぁ…、オレの伝手じゃあ、みんな貧乏人になっちゃうよ。ハハハ…。まあ、せっかくの上京だ。原宿あたりを歩いてみたらいい。みゆきさんならスカウトされるかも知れないしな」

「まあ!ほんなら、それなりの服、あっちに持って行かないとねえ…」

「でも、みゆきちゃん…、ノボルさんみたいな、”仮面の下”オオカミ男には気を付けないとダメだよ。モデルにどうっとかって釣られてさ、海外に売り飛ばされる女性は決まって地方の子だから…」

「やだ~、マスター…、コワいこと言わないでくださいよ。でも、大打さんみたいな陰のある紳士には気をつけなくちゃ」

(一同、笑)

...


「…では、マスター、1週間もお休みいただいちゃってすいませんが、行って来ます」

「ああ、気を付けて行ってきてよ。こっちは、いい土産話を楽しみにしてるから」

「それは期待されても…、まあ、どうかなってとこですかね。でも、ホントのお土産はちゃんと持ち帰りますから。大打さんの分も忘れませんので、楽しみにしててくださいね」

「…」

高校の修学旅行以来という東京行きに、みゆきは胸を弾ませている様子だった。
間もなく、彼女は足早に店を出て行った…。

...


「…北海道へ行くこと、彼女に告げなくてよかったんですか?」

「このオレにはよう、お前そっくりはムリだと悟ったしな。これからの自分となればだ…、今まで以上に余分なもんは剥ぎ落してかなきゃならない。…あの子には、適当なつくり話で繕っておいてくれ」

「ノボルさん…」

三貫野はなんともやるせない表情でノボルに目をやるだけだった…。