大打ノボルの秘められた黒い意思/運命の舞台、九州で
招かざる産声②


「ふう‥、ずいぶんとあっさりだな。じゃあ、ちょっと突っ込ませてもらうか」

『どうぞ…』

「…こっちがもっとも手を染めたくないという理由だが、これは何も覚悟の範疇だけじゃない。そもそも俺達は極道だ。殺しや殺されるのを恐れていたんじゃ務まらん。問題は、組の為に相手を殺る。そしてムショ行きだ。それらはいいとしよう。その覚悟アリってことでな」

坂内は理知的なやくざの親分で通っていた。
どこか、ドライなやり手のビジネスマン…。

その坂内がこの後、持ち前の事務的な口調からややセンチメンタルな語り口になったのが、ノボルにとっては妙に興味深かった。

...


「…昔は刑期を終えて戻れば、それはこの世界では勲章にもなったし、出世の階段も登れた。だから、気概のあるヤツは殺しも率先してな。だが…、今はなかなかなんだ。何しろ時代の移り変わりがあまりに激しくてな…、組に貢献して塀の中に入ってる数年間で、組を巡る情勢がガラッと変わっちまってる。組に復帰たら浦島太郎ってことも珍しくねえんだ」

「…」

「…一番は、価値観や感覚のズレで、ポストは得たとしても下のモンを掌握できないケースも少なくない。下手したら業界で生きていけなくなるんだ。刑期を全うしてる間に世の中が変わる…。それを恐れて、”殺しのやり手”が不足ってのはどこの組でも抱えてる深刻な悩みなんだ」

ノボルは坂内の貴重な実情談話を、業界の中枢で生きる男の告白としてかみ砕いていた。
もっとも、彼の持っいく”結び”は読めていたが…。

...

「それを理解してもらった前提で、キミに尋ねよう。言うまでもないが、殺しにヘマは許されねえ。従って、腕の立つ者でないと当然務まらねーよ。そういうヤツがだ、5年も10年もムショに入るのは当然嫌がるだろう。そのネック、どうやってクリアする?その答えで、身代わりってのなら、通常ならそんなもん誰だって嫌がるし費用も高くつく。そこんとこのクリアも示してもらおう」

『おっしゃるネックのクリアは身代わりでってのが、まずは私の答えです。ただし、じゃあどんなヤツをって、次のネックは私のオリジナル回答を用意してあります』

「それ、聞かせてもらえるな?」

坂内はどこかせっつくニュアンスだった。
それを敏感に悟ったノボルは、ここで考えていた一計に移った。

”よし、ここで少し焦らすぞ”

...


『私たちはやくざではありませんし、その後となってもその気は毛頭ありません。なので、そちらでできないこともできます。この角度での発想なので、ご了承いただけますね?』

「ああ、それでいい」

『身代わりで出頭するのは未成年者です。彼らなら、少年法が守ってくれて、人生だって若いうちにやり直して行けますんで。なので、待遇や募集方法次第で人材確保は十分可能と踏んでいます』

「!!!」

大打ノボルは日本を代表する広域組織直系、東龍会のトップを絶句させた…。