大打ノボルの秘められた黒い意思/運命の舞台、九州へ
黒の飛翔⑦



「…坂内さんは、大打グループとのパートナーシップ提案を打診してくる。しかし、それは今すぐではないってスパーンでです。将来的な…、まあ中長期、具体的に3年か5年か10年先かってラインまでは明確にできませんが。ただ基本は、それなりの機が熟すってことで、正確には”条件”が満たされれば即でもやって行こうやってハラだと思う」

「うん、それが前提でおしゃべりを進める。それでいいんだな?」

「ふふ‥、カレとのおしゃべりは、その薄笑いを交えないといけませんよ」

二人の薄笑いは、悪だくみの場にまばゆいばかりのフラッシュを放った。
そのビジュアルは、悪代官と悪徳商人のそれを二人と意識してのものでもあったが…。


...


「坂内さんは、ガキとのパートナーシップを二側面で青写真に描いています。”そこ”はしっかり掌握しておいて下さいよ」

「ああ、承知してるさ。対相和会の攻略パーツ、それに実際の”ビジネスモデル”の確立ってとこだろう?」

「ええ‥。ですが、前者は対外的なアピール面の色合いが強いと思う。少なくとも、ガキをクッションにした切り口で相和会を突くアクションは今後も継続させるはずですが、実際に行動するのは今まで通り傘下の星流会であって、東龍会は出ばらない。ここがポイントです」

「ふふ…、でも、正直にそれは関西に言えないわな。だから、星流会スキームの改良版を試作中です、こうご期待とな。当然、口先だけってな」

「それでも、今の相和会を見据えれば、関西を惹きつけるには十分なものがありますよ。これは、相和会の脅威をそれだけ深刻に捉えているという証左になりますが…」

「だよなー。御園さんも言ってたが、相和会にI組の頭を下げさせたのは西側の長老さんで、その人を動かしたのが静岡では顔役の、相馬さんの兄弟分ってんだから、もう、完全大手が中小企業にもてあそばれてんじゃん。ある意味、痛快だ(苦笑)」

「だが、笑えないのは、関西側がダメージを負って本来は敵失を喜ぶ立場の、一方のライバル・大手たる関東も”ヒト事じゃない、これは全国組織の権威失墜”だって、もはや相和会を恐れるまでの共通認識に持って行かざるを得ない実情ってことです。それ故、ここは大手同士、一旦手を結んで危険な爆弾を何とかせんといかんだろうとなる…」

「アハハ…、オレたちから見たらやっぱ、痛快だって。まるで先の大戦末期、日独伊の枢軸国で最後まで徹底抗戦に出たジャ○プを、仇敵関係の米ソが手を結んでってのとかぶるわ。まあ、今回はぶっちゃけで、今の相和会に原爆を落とせる状況ではないようだが(笑)」

「そう言うことなんです、ノボルさん!今回、東西間での究極の相和会対策は表に出さない形で、本当の認識合意を交わしてるはずです」

「三貫野よう…、オレもお前と接するようになって、頭が柔軟になってきたようだ。ここまで厄介者となった相和会に、”大手2社”がどう対処すべきかってなったら、たかが独立系やくざの一組織がよう、なんでそんな化けものみたいなんだってことに目を向けなきゃ、大手さん方の気持ちは汲めねえもんな」

「ふふ…、その先、早く聞きたいですね」

「ズバリ、相和会を大手の傘下に収めるには、今の相和会を作り上げた相馬会長自身がいなくなるのを待つ。まあ、現実的には死ぬってことだが、通常なら待ってないで殺すよな、やくざだもん。でも、それはできない。仮に殺しても相手は超カリスマの魔獣だ。死んで尚、新たな脅威に変体を遂げるかわからん。そんなリスク取れねーだろう、じゃあ待つしかねーよってな」

「アハハハ…、なんともわかりやすい。…ノボルさん、東西は今回で、極道界の問題児・相馬豹一がこの世を去るまでじっくり待とうという合意形成を暗に持ったのは間違いないっすよ。無論、適宜ジャブをかましながら、隙を伺うことは怠らずに…。そうなれば、坂内さんが我々との”婚約儀式”では、”それ”が成った時、若しくはそれの予測がたった時…。そこが我々にとっても行動開始。こうなりますよ」

「うむ…。今、お前の言った後者は、病気か何かで余命いくばくかと読めた時期ってことになるな。つまりはだ‥、オレ達と坂内さんによるパートナーシップ、フル回転の条件成就の時期は、”相馬さん次第”で定まるってこった」

「フフフ…、そこを抑えておけば、坂内さんとのおしゃべりはおのずと”弾む”ことでしょう。その為には…」

「おお、坂内さんがパートナーシップを打診となれば、こっちもそれなりにプレゼンテーションを用意しとかなきゃな。要は他の同業のガキができないことをアピールだ。オレ達にしかできないことの提示は、その場を見て効果的に持ちだすさ。向こうが”それ”を最も喜んでくれるタイミングを計って、焦らしながら確かめた上でな…」

二人の悪だくみは核心に入っていた…。