その3


「おや…?蛍光灯が点滅か…」

武次郎が畳6帖を照らす天井から吊るされた照明を見上げ、そう呟いた。

「フフ…、オレ達もようやく裸電球から卒業したんだな…。こんな安物の吊り下げ照明でもシャンデリアに見える」

ノボルは相変わらず両肩を尖らせたまま、しんみりめであるべき言葉も機械的だ。

「…だが、オレ達は年端もいかない中学のガキだったのによう、生計を立ててたんだしな。あの当時の裸電球も二人の稼ぎで明かりが灯されてた。当然、電気代も払ってたから点いてた訳だが…(苦笑)」

兄の渇き気味な回想話に、巨漢の武次郎も決して感傷的になどなるそぶりは見せず、ただ淡々と思い起こすところに留まっていた。


***


「…まあ、十代半ばのお子様がよう、金貸しだもんな。もっとも、オレ達的には”立替え業”だったが…。その金利というアガリで4畳半ひと間を間借りして、いっぱしの社会人気取りだった。だが、オレたち二人は肩を寄せあいなんて湿っぽさは露ほどもなかった。堂々と稼いで、将来に向かっていた…。寝てる間も両の眼をギラギラさせてな(苦笑)」

兄ノボルは、ストーブの赤い熱線にじっと目を止め、雑談調でそう語っていた。

「ハハハ…、そうだよ。まさに堂々と金融業だったわ。他の奴らじゃあ、思いもつかないし逆立ちしてもできないことを、オレ達は中坊の時分からやってきたんだ。それが原点だし、今もこれからもそれがベースになるって」

「フン…、”あの体験”をベースにはしていく。でもよう、そのベースは金を立て替えて、金利の利ザヤをとるってスキームじゃあない。人と組む、人を使う、それ以前に人を掘り当てる…。こっちだぜ、肝心なのは」

ここでノボルはやや顔をこわばらせ、武次郎に目線を向けた。