その2


そして…、大打武次郎もまた、兄のノボルを信頼しきっていた。
いや、ノボルだけを…。

二人はこの年齢ですでに、他の4人の異母兄とは実質、断絶していた。
実際、ここ何年も一切行き来はなく、ノボルと武次郎の中ではとっくに自分ら以外の兄弟4人は”アカの他人”になっていたのだ。


***


「…それも承知してるって。椎名とは密なやり取りは欠かさんし、歩調は合わせていく。ヤツも言っていたが、これからの時代、オレたちを取り巻く環境は激変するだろうしな…。そこに鈍感では時代の先端には立てない。だろう、兄貴?」

「その通りさ。”そこ”を見定めて、オレはなるべく多くの地を踏む。そして、それぞれの地で”実り”を得てくるつもりだ。実経験・人材・知恵…、”それ”を持ち返って横浜に戻った時、オレたちのアクション・プログラムは本チャンでスタートを切る…」

「フフ…、急がば回れか…。まあ、”お楽しみ”にはそりゃあ時間がかかるさ。オレ達の到達点はそれだけ高いってことだしな」

ノボルは脂ぎった笑みで、異母兄弟6人の中、唯一”通じる”武次郎とアイコンタクトを交わしていた…。


***


ノボルと武次郎…。
二人はこの時、21歳と19歳だった。
だが、彼らはもう4年前から二人きりで自立、生活していたのだ。

二人の父は現在、刑務所で服役中である。
というか、ノボルたちがまだ小学生の頃から塀の中を行ったり来たりで、その父と6人の女との間に生まれた異母兄弟6人は、幼い時から父親の親戚に預けられたのだが…。

上から2番目と3番目だったこの二人だけは、中学在学中に、その親戚の家を出た…。
そしてなんと、この年で収入を得て自立したのだ。

彼らのお金を得る手段…。
それは信じられないことに、”金貸し業”だった…!