大打ノボルの秘められた黒い意思/運命の舞台、九州へ
ブラック&スマート!痛快な絵図②



”それにしても…、人の行き交いの様というものは、その地によってこうも違うものなのか…”

時間がゆっくり、いや、ゆったり…。
大打ノボルが素直に捉えた横浜や東京の繁華街との対比の表現は、まさにそんな感じだった。
それはあくまでのんびりではなかったのだ。
ここが肝だった…。

”フン…、要は時間の奴隷になり下がるか否かの違いさ。ココは然るべき人間様にとっては、じっくり時間を食えるってことなんだ”

既にノボルの”かみ砕き”は淘汰されていた。


...


それから数分して、オレンジの派手なスーツに身を包んだ、背の高い若い女をバックミラーが捕らえた。

”アレだな…”

ノボルの見効きにハズレはなかった。

その女は、ノボルの車までまっすぐ歩いてくると、助手席のウインドウに顔を寄せながら、骨ばった右手の拳で軽くノックを3回…。
ノボルは数秒の間をおいてから運転席を降り、助手席側に回りってドアを開いた。

「亜里奈さんってことだったらどうぞ…」

「あらあ…、おたく、ぜんぜん違うんねー。他の送りさんとはさー。じゃあ私、亜里奈に違いないんで、失礼しますよ」

亜里奈は甲高い声で早口だった。

「どーぞ」

ノボルのエスコートは極めて贅肉の削られたもので、このわずかな振舞いが熊本育ちの若い女にとっては、一種の異国感をもたらすものだった。
このたった数秒が…。


...


「…そう。おたく、ヨコハマからいらっしゃったの~、昨夜…。それで、今晩もうお仕事とね…。えらいんと思うよう、ワタシ…」

亜里奈は確かに酒が入ってはいたが、そのダレた舌ったらずは素のモノだろう…。
ハンドルを握るノボルは、”ターゲット”の女を、まずはそう見立てていた。

「…私もさあ、ここらで東京に出たいんやわ。こんな地方からは一旦オサラバしたい。今はさあ、めちゃくちゃその気持ちに駆られてるんよ。あ~あ、誰かステキな人が現れて、私を東京に連れとってくれないかしらね~」

「…」

”この女、根っからだな。そうとわかれば、接触点はオーソドックスでいいか…”

ノボルは既にターゲット攻略を描き終えていた…。


...


「…えー‼ちょっと…、なんで知っとるのよ、私の不倫相手をさー」

「3週間前の送り手から…。どうなんです?その狩野とかってチンピラにまだ未練アリっすか?」

「だったら、どうなんよ!アンタに何かできる訳?」

「それとなれば、やれます。オレは将来ヨコハマで台頭する気構えを持ってこの九州に来た。極道を手のひらに乗せる野心を抱いて…」

「???」

助手席の亜里奈は運転するノボルに顔を向け、微妙に充血した両の目をぱちくりさせていた…。

...

「キミ…、よかったら、将来的にオレ達のネットワークに噛まないか?そこの上なら東京でも横浜でも、受け皿は提供してやる。どうだ?」

「あのう…、あなたさん、何者なんよ。やくざなの?」

「今言っただろう。やくざを掌に乗せるガキを目指してるハマっ子だって。よかったら、どこかで詳しい相談受けつけるぜ。体ごとで。じっくりとな」

「じゃあ…」

...


対熊本女の処方箋は完璧だった…。
ここに大打ノボルは、九州上陸2夜目にして、熊本産の”女忍者ストック”アップを果たす…。