その2


「…我々としては、実際に今回ばかりは手段を選ばすだ。何しろ、確実な手立てで臨む。それはしっかり肝に銘じといてもらいましょう。…第一、マトの本郷麻衣については、アンタだってよく周知してるはずだ。年端もいかない小娘だが、強敵なんだ。絶対、油断はしてもらいたくない。いいですね!」

「わかってる。だがよう…、アンタの組み立てじゃあ、俺が出張る前に、マトないしは向かい合う男たちの中で死人が出てる可能性だって高いぞ。…ひょっとしてオタクら…!マトを俺が始末する前に、前段の男達を麻衣に殺させるつもりなのか⁉」

「それは展開に任せるってことです。だが、今回はマトを殺した身代わりのキャスティングを用意してはいない。わかりますね、その意味…?あなたが麻衣を殺したとして、その罪を肩代わりする役はいないんです」

「フン、なるほど…。ガチンコってヤツだな。フフ…、そうすると、タカハシさんよう…、アンタらとしては、むしろ麻衣には最低でも、一人は殺してもらわねえとまずいんじゃあないのか?」

この時、タカハシの目が一瞬鋭く光った…。

...


「ええ、その通りですよ。正確に言えば、麻衣とやり合った人間は麻衣とここで一緒に死んでもらうってことです。あとは我々が速やかに無事撤収して足を残さなければ、それで完結する。すべて‥」

「ふう‥、何ともエグいオペだな…。本郷がハンパないガキだと十分承知した上で、所詮17のお嬢ちゃんを大のオトナが何人がかりって…。ちょっと抵抗はあるぜ、正直…。ヤツは一人でくると見ているんだろう?」

ここでタカハシの顔色は紅潮…、口調も一変する。

「オオカミさんよう…、こっちは麻衣が一人でくるときしかヒットの対象にしてねえんだよ!…ついでに言っとく。東龍会は麻衣が想定通りたった一人でココにやってきて、ここまでの大人数でも安心などしていない。日本を代表する極道の親分が、そこまで警戒してる相手なんだよ、元女子高生の本郷は!いくらアンタでも、一瞬のスキが命取りになるぞ。それは今から言っとくぜ」

さしもの秒殺オオカミもタカハシが発する異様な迫力を感じとり、やや面食らった様子を見せたが、すぐに薄笑いを受けべて口を開いた。

「フン、テメー…、いつも紳士ぶってるが、正体はそんなとこか。フフ…、なかなか喰えねえな。…わかった。アンタの今の言葉、頭に叩きこんでおく」

「ああ、頼む。完全パーフェクトで終えれば、報酬は2割増す。くれぐれも慎重と完璧を期してくれ」

「了解した‥」

かくて、本郷麻衣ヒットの”舞台設定”は整われた…。

この日からXデーまでの10日間、三貫野ミチロウこと、殺人コーディーネーターに進化したタカハシは、本郷麻衣完全抹殺のコーディネートに没頭する…。