その6



「武次郎…、坂内さんはさすがにしたたかだ。逆境をチャンスに変えるマジックも心得ているよ。不屈の精神もな。そういう飛びぬけた人は、敵の強靭さにも敏感だ。それをトータルで判断し、引くべきは引くことができて、生き延びることができるんだろう。麻衣に限れば、一歩対応を誤れば破滅だと、あの人達は承知してる」

「だからー、それで、なんだってんだ‼」

椎名の取り繕うという姿勢にも、この時の武次郎は決して入りこむ余地を与えなかった。
だが、椎名は根気強く武次郎に訴えた…。

「こっちがいざ、麻衣のヒットオペをこの次第でと具申すれば、万一の場合の責任の所在を求めてくる。それをあらかじめってことさ」

「ふう…、ここまで長々と、お前らー!要は兄貴を生贄ってことで事前同意をってか⁉この3人での…。それを添えて、東龍会に麻衣ヒットオペを上申かよ?ふざけんな‼」

「…」

椎名とタカハシは取りつく島がなかった…。

...


「武次郎…、万、万が一って場合の覚悟ってことで捉えればいいんだよ。そんなことない…、決して。そこに何としても持って行く…。でも、最悪の場合は、最高責任者差し出しはいいなって問いかけに対する心の準備だ。どうだ、それで頭の整理つかないか?」

「椎名…、それを、兄貴にはダマで通すってのかよ…」

「ああ、言うべきことではないでしょう、武次郎さん。あの人は、本郷麻衣に感情を左右されてるのを、自分自身でとっくに自覚してる。そして、相手が最強の油断できない”子供”であることも…。加えて、彼女のその妖しい個性にどうしようものなく惹かれるものも感じてる。それでなんですよ。あの人は危険承知で”その道”を選んだ。オレ達はそれを、最終的に容認した。万、万が一の場合は仕方ないと…」

ここにきてタカハシは毅然と答えていた。

「椎名、タカハシ…!お前ら二人…、坂内さんに抱かれてるとかってねーよな?」

「ない…!そう言っとくよ、武次郎…」

そう言って、武次郎の目をじっと見つめる椎名の顔…、それは小学校時代からの竹馬の友に戻っていた…。