その8


「…いいか、ノボル。よく覚えておくんだ。非合法、アウトサイダーのスタンスでゼニを稼ぐ者は、ガキだろうが、”みなさん”に喜んでいただくことを常に意識しておかねばならん。最低でもその時だけは…。ゼニを払ってくれる相手に最初から恨まれてたんでは、”商売繁盛”など続きはしねえ」

「わかりました。今後、それは肝に銘じます」

ノボルは妙に神妙な顔つきでそう誓った。

”今の俺にとっては、この人の言う沼底が眩くてしょうがない。そうさ…、俺はそんな陰の極地に身を置くことを暗に願って生きてきたんだから…”

坂内はそんなノボルの反応を注意深く見届けると、再びソファへ腰を下ろし、ノボルと正面を向きあった。

...


「話を戻すようだが、相馬の寿命で俺たちのタッグはその行動が大きく左右する。現状ではそれ、1年ってとこでと見ておいてくれ」

「1年ですか…。業界では数年ってラインの見立てだと思ってましたが…」

「この認識は俺と田代んとこくらいさ。関西やほかの関東の主だった連中も、1、2年って捉えてはいても、実際はもう少し先って感覚でいる。なので、まだ切迫感までは持ち合せていないはずだ。だが、俺には相馬のおっぺす小娘の対応がやけに気になるんだ」

「ええ…。ここにきて、血縁に仕立ててまでの少女二人となっては、オレも相馬さんが自分の死期に際した、”何かの目的”への布石じゃないかと…。自分ではそれって、もう確信に近いです」

「うむ…。冷静に考えて、高校生になったばかりの少女だぞ。あの年代なら数か月、半年サイクルでいろんな面での変化があったっておかしくない。今の状態をそう長くというのは到底無理があるだろうよ。相馬とて、あそこまで低年齢の少女に直接関与したのであれば、その意図が何であれ、ごく短期の視点で考えてるとな…」

”その短い期間で見据えてるってのが、自分の死期だと…。坂内さんの見立てではそれ、約1年ってとこか…”

ノボルが心の中で呟いていた1年…、それはとても重いものだった。
これは彼が想定していた、最短の期間であったのだ。