その5
しばらくすると、坂内はソファから立ち上がり、リビングの窓際まで歩いて行った。
甚平姿でノボルに背を向け、外のきらびやかな花火に見入っているようだ。
「数年前になる…。この花火大会の数週間後、台風の豪雨で多摩川が決壊してな…。家屋が濁流に飲み込まれた。…瑕疵のあった小堤防がその役目を遂げられなかったことで、決壊した水の流れを櫂に逃すことができず迂回した濁流が、本堤防のどてっぱらを開けちまったんだ…」
”そうか…。あの時の洪水被害はこの地域だったんだわ。そして、坂内さんのシメる地元だったわけだ”
「ノボル…、この煌びやかな火の舞いを河原で眼前にしてよう、夏の夜空に心をときめかせた後、ほどなくあの地獄絵図だ。普通なら、翌年は閑散だよ。人間の心理としてはな。だが実際は、露店の売上げは前年の倍近くだった。それは、”やること”をやったからだ。俺達がな…」
坂内のやったこと…。
それこそ、前年の台風によって悲惨な事態を招いた地を、要は、結果的に住民のメンタルをプラスに持って行く材料に仕てた、言わばアジテーションであった。
...
「あれは明らかに人災だったんだ。ふふ…、そこを活かしてよう、アウトサイダーの俺達が、ここぞとばかりに地元住民の心の琴線をピーンと弾きまくってやった(薄笑)」
「…じゃあ、東龍会は、行政に翌年の花火大会を成功させないと、”人災”がまた起こりかねない…、それを回避する気があるんなら、我々は地域住民の一員という立場で、花火大会を何としても成功させると…。そうプレッシャーをかけたんですね?」
「ハハハ…。気分よかったぜ、そん時はな。市の中枢が、応接に招いてくれて、ぜひぜひにとよ…」
「あのう、今後の参考にしたいんで、その時の坂内さんの口上とか、教えてもらえませんか?」
「うむ…。”今の住民は、我々極道より行政の方に不信感を抱いている。その理由をそちらは十分、承知のことと思う。あんたらは補償ですべて解決と思ってるだろうが、住民はまだまだ去年の台風を忘れていませんよ。今年も花火大会の直後には、大変なことが起こるかもってトラウマは拭われていない。今度の花火大会が閑散となれば、皆洪水がまた起こるかもしれないという不安心理を抱えていることがあからさまとなる。それでいいんですか、あんた方は?”…と、こんな感じでかましてやった(笑)」
”ふう‥、一見、さりげない言葉の羅列に聞こえるが、行政からしたらまさに王手をくらった心境だっただろうよ”
ある意味、強烈なショックを受けたノボルは、素直な気持ちに従ってこう尋ねた。
「それで…、役人のお偉いさんは何て答えたんです?」
ノボルはその”答え”を無性に欲した。
しばらくすると、坂内はソファから立ち上がり、リビングの窓際まで歩いて行った。
甚平姿でノボルに背を向け、外のきらびやかな花火に見入っているようだ。
「数年前になる…。この花火大会の数週間後、台風の豪雨で多摩川が決壊してな…。家屋が濁流に飲み込まれた。…瑕疵のあった小堤防がその役目を遂げられなかったことで、決壊した水の流れを櫂に逃すことができず迂回した濁流が、本堤防のどてっぱらを開けちまったんだ…」
”そうか…。あの時の洪水被害はこの地域だったんだわ。そして、坂内さんのシメる地元だったわけだ”
「ノボル…、この煌びやかな火の舞いを河原で眼前にしてよう、夏の夜空に心をときめかせた後、ほどなくあの地獄絵図だ。普通なら、翌年は閑散だよ。人間の心理としてはな。だが実際は、露店の売上げは前年の倍近くだった。それは、”やること”をやったからだ。俺達がな…」
坂内のやったこと…。
それこそ、前年の台風によって悲惨な事態を招いた地を、要は、結果的に住民のメンタルをプラスに持って行く材料に仕てた、言わばアジテーションであった。
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「あれは明らかに人災だったんだ。ふふ…、そこを活かしてよう、アウトサイダーの俺達が、ここぞとばかりに地元住民の心の琴線をピーンと弾きまくってやった(薄笑)」
「…じゃあ、東龍会は、行政に翌年の花火大会を成功させないと、”人災”がまた起こりかねない…、それを回避する気があるんなら、我々は地域住民の一員という立場で、花火大会を何としても成功させると…。そうプレッシャーをかけたんですね?」
「ハハハ…。気分よかったぜ、そん時はな。市の中枢が、応接に招いてくれて、ぜひぜひにとよ…」
「あのう、今後の参考にしたいんで、その時の坂内さんの口上とか、教えてもらえませんか?」
「うむ…。”今の住民は、我々極道より行政の方に不信感を抱いている。その理由をそちらは十分、承知のことと思う。あんたらは補償ですべて解決と思ってるだろうが、住民はまだまだ去年の台風を忘れていませんよ。今年も花火大会の直後には、大変なことが起こるかもってトラウマは拭われていない。今度の花火大会が閑散となれば、皆洪水がまた起こるかもしれないという不安心理を抱えていることがあからさまとなる。それでいいんですか、あんた方は?”…と、こんな感じでかましてやった(笑)」
”ふう‥、一見、さりげない言葉の羅列に聞こえるが、行政からしたらまさに王手をくらった心境だっただろうよ”
ある意味、強烈なショックを受けたノボルは、素直な気持ちに従ってこう尋ねた。
「それで…、役人のお偉いさんは何て答えたんです?」
ノボルはその”答え”を無性に欲した。



