その７


大打ノボルは、ついに”その一線”を超えた…。

”しかし、最初から女になるとはな…。ただ、今回の犯人さんは向こうが用意してくれてたわ。フン…、これは坂内さんのリスク回避だろう。オレはまだ、試用期間中の身として見られてるってことだ。そこを自覚しておかなきゃいけない…”！

初めての殺し…、デッド・オーダー…。
雇った執行者・北海道の秒殺オオカミは、マトの若い女をリクエスト通り静かに消した。

それは完璧に近い形で、パートナーの意に沿えたと言ってよかった。
だがノボルは、極めてシビアにパートナーの相手方としての自分を捉えていたのだ。

...


”坂内さんは喜んでくれた。それはしっかり伝わってきたさ。だが、やはりホッとしたって面が強いんだろう。あの人は何しろ、この段階で殺しのオーダーをクリアという実績よりも、この時期ってことでの”アリバイ”を欲していたんだ。おそらく、いろんな立場、周囲の目とかも意識して…”

大打ノボルの胸中は、いかほどか屈折していた。

”初仕事”を何とかやり遂げたとう達成感よりも、”ビジネスパートナー”から保護者の目で据えられてるという、何ともなもやもや感…。
彼の感性によっての不甲斐なさからもたらされる、己への苛立ち感と言った気分が、この時の彼を支配していたのだ。

”坂内さんは日本屈指の大物親分だ。所詮ガキのオレなんぞが対等のパートナーだなんて、そんな大それたカン違いはしていないさ。だが、あの人から、今の目線ではダメなんだ！それでは意味がない‼ＮＧを自ら排除した意義が…”

...


そして、ふと彼は感じるのだった。

”オレは何て高い靴底を履いて走ってるんだ…。どうして！どうして、そんなにまで背伸びし続けなきゃあ生きて行けないと、呪文のようにテメーを洗脳せざるを得ねーんだ…”

そんなノボルは、この頃からあるモノを求めていた。
彼自身が自覚している、己の屈折した一途さを正面から、そう真正面から受け止めてくれる存在を…。
その欲求はやがて貪り漁るように、激しくノボル自身を誘ってゆくのだった…。